新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は1月26日、印刷で製造可能な有機温度センサと高性能有機半導体デジタル回路を開発し、電子タグとして温度センシングと商用周波数での温度データ伝送に成功したと発表した。

同プロジェクトは、東京大学 新領域創成科学研究科 物質系専攻 工学部応用化学科の竹谷純一 教授や大阪府立産業技術総合研究所などのグループによるもの。

研究グループは、有機半導体を塗布し結晶化させる技術を基に、高性能の有機CMOS回路と塗布して作れる有機デジタル温度センサを独自開発し、13.56MHzの商用周波数によって電波でのデジタル信号の伝送を実現した。従来の塗布型有機半導体よりも、10倍以上高い性能で、1/10以下の低コスト化が可能な印刷法で形成でき、さらにセンサ部も塗布法で作成し、温度検知機能つき物流管理タグとして利用できることを示した。

具体的には、東京大学のグループが、有機半導体を溶液で塗布すると同時に、結晶化させて膜にすることができる塗布結晶化法を開発した。同方法では、p型およびn型の有機単結晶をライン状に連続成長することによって、10cm角程度の有機CMOS回路を製作することを可能にした。p型およびn型の有機半導体分子が混合することなく、規則正しく配列するため、高移動度の有機半導体を形成でき、集積化に適した多数の同じ特性のトランジスタを製作できることが特徴となっている。この他、富士フイルムと共同で、フレキシブル基板上のプロセス検討を行い、デジタル回路動作の確認にも成功している。

また、大阪府立産業技術総合研究所のグループは、溶液から簡便に作れる有機高分子材料PEDOT:PSSの抵抗が温度変化する現象に着目し、室温付近で感度の高い、低温塗布型有機温度センサを開発した。加えて、典型的な塗布型有機トランジスタのキャリア移動度0.1~1cm2/Vsを1桁も上回る10cm2/Vsを有する有機半導体「アルキルDNBDT」を用いて、抵抗のアナログデータをデジタルデータに変換する回路を構築した。これにより、物流管理や体温モニタに利用できる印刷プロセスによる低コスト、フレキシブルのデジタル温度センサが得られたという。

さらに、トッパン・フォームズが開発した低コストのアンテナデバイスと上記CMOS回路を同一プラスチック基板に実装し、温度センサと直結することにより、13.56MHzのRFID信号で温度データのデジタル伝送に成功した。印刷が可能な有機デジタル回路によって、センサ出力のデジタル変換とRFIDデジタル通信による信号伝送が実現したことは、NFC(Near-Field Communication)用の低コストかつ軽量フレキシブルのセンシングデバイスの開発に直結するとしている。

今回の成果を応用し、現在は、より多ビットのデータ伝送を目的として、論理回路のさらなる集積化を可能にする研究開発を進めている。また、温度センサを搭載した物流管理用RFIDタグの試作を進め、実用化への研究開発を加速するとコメントしている。

開発した温度センサ機能つき電子タグの有機単結晶デジタル回路

有機抵抗温度センサとデジタル変換回路

左写真の上が有機温度センサ。温度変化により、材質の抵抗が変化し、それによりしきい値(温度)を超えると、温度が変化したことを認識するというもの。左写真下が有機単結晶デジタル論理回路と有機リングオシレータ、有機整流回路で構成されたインレット

実際のデモ風景。20℃に保たれた状態のワインセラーを模した状況をモニタリングし、13.56MHzの周波数(RFID)で、リーダー側に温度モニタリングデータを飛ばすというもの