北海道大学(北大)は1月16日、安価で生物に優しい軽金属イオンを含む多孔性軽金属錯体の新規合成手法を開発したと発表した。

同成果は、同大 電子科学研究所の野呂真一郎准教授らによるもの。詳細は、「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。

金属イオンと有機配位子から組み上がる多孔性金属錯体は、触媒材料や物質の分離、吸着材料として使われてきたゼオライトや活性炭に続く次世代の多孔性材料として注目されている。これまで、金属イオンとして重金属イオンが主に使われてきた。一方、重金属イオンよりも安価で生物に優しい軽金属イオンは、多孔性構造を形成するための"相棒"となる有機配位子が限られていたため、その利用が制限されていた。

研究グループは、軽金属イオンの"相棒"としてほとんど用いられてこなかった中性有機配位子を用いる新しい合成手法を見出した。これまで、中性有機配位子を有する多孔性軽金属錯体の報告例はわずかで、しかもそれらは偶然得られたものであり、明確な設計指針の下で合成された例はなかった。今回、電荷分離した構造をもつ中性有機配位子と軽金属イオンであるマグネシウムやカルシウムイオンを補助有機配位子の共存下で反応させることにより、中性有機配位子で架橋された多孔性軽金属錯体を狙って合成することに成功した。

さらに、得られた多孔性軽金属錯体が細孔中に存在する溶媒分子を除去したあとも安定で、室温で二酸化炭素(CO2)とメタンの混合ガスからCO2を高選択的に分離できることを実証した。これまで明確な設計指針の下、中性有機配位子によって連結された多孔性軽金属錯体の合成例はなく、同合成手法が多孔性軽金属錯体の構造の多様化に有効であることが分かったとしている。

今後、開発された合成手法を用いて多様な構造をもつ材料合成を行うことにより、安価で安全な多孔性金属錯体の実用化が期待されるとコメントしている。

軽金属イオンの新しい"相棒"となる電荷分離型中性有機配位子。今回の研究で用いた電荷分離型中性有機配位子は分子全体としては中性だが、プラスに帯電した窒素原子(青)とマイナスに帯電した酸素原子(赤)を持つ。その結果、硬い塩基性を示し、硬い酸である軽金属イオンと結合を形成しやすくなる