大豆にとって収穫期に莢(さや)がはじけて落ちこぼれることは大問題だ。この大豆の落ちこぼれによる収穫ロスを抑える遺伝子を、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)北海道農業研究センターの船附秀行(ふなつき ひでゆき)主任研究員(現・近畿中国四国農業研究センター)と北海道大学大学院農学研究院の藤野介延(ふじの かいえん)准教授らが見いだした。莢のねじれを抑えることではじけて畑に落下するのを防ぐ遺伝子で、この発見から栽培大豆の起源や歴史も透けて見えてくる。農業生物資源研究所と香川大学との共同研究で、12月2日付の米科学アカデミー紀要のオンライン版に発表した。

写真1. 大豆の莢の構造(提供:農研機構、北海道大学)

野生植物は、より広い範囲に拡大して子孫を残すため、種子を散布させる仕掛けが必要になる。マメ科植物は成熟すると、莢が勢いよくはじけて種子を遠くまで飛散させる。こうした性質は、野生植物にとって有用だが、作物の場合、収穫する前に生産物を損失することになる。このため、野生植物が作物となっていく過程では、種子を飛散させない個体が選ばれ、栽培品種となってきた。

図2. 大豆の莢の裂莢性に関わる遺伝子とその産物のタンパク質のアミノ酸配列、上が莢をはじけやすくする遺伝子Pdh1で、下がはじけにくくする遺伝子pdh1。(提供:農研機構、北海道大学)

写真2. 乾燥条件下でのpdh1型品種とPdh1型品種の裂莢程度、成熟3週間後、pdh1では莢がはじけてないのに対し、Pdh1では多くの莢がはじけて、種子が落ちやすい(提供:農研機構、北海道大学)

栽培大豆の品種間でも、莢がはじけにくい性質(難裂莢性)の程度が大きく違う。はじけやすい品種では、収穫の遅れで脱粒が増し、30%もの豆を損失することが報告されている。米国では、収穫時期が乾燥しやすく、古くから大規模なコンバイン収穫が行われてきたことから、難裂莢性の品種が主流となっている。一方、伝統的に国内の大豆は「あぜ豆」と言われるように小規模栽培で、収穫期の秋が比較的湿潤なこともあり、難裂莢性ではない品種が維持されてきた。

しかし、近年、日本の大豆栽培もコンバイン収穫が増えた。また、温暖化が今後進み、収穫期に乾燥することも懸念されている。このため、国内でも安定生産のために難裂莢性が重視されるようになってきた。研究チームは、20本の染色体で構成される大豆のゲノムで、難裂莢性遺伝子の位置を絞り込み、新規の遺伝子を突き止めた。易裂莢性をPdh1、難裂莢性をpdh1と名付けた。

大豆の莢は成熟して乾燥すると 、ねじれて開裂しようとする。pdh1型の莢は、Pdh1型に比べてねじれにくく、莢殻を引き離す力が弱いことがわかった。両遺伝子の塩基配列を解析すると、1カ所の塩基が異なり、本来183個のアミノ酸からなるタンパク質が作られるべきところ、pdh1は30個のアミノ酸から構成されるタンパク質になり、機能が不完全なことを確かめた。

Pdh1が祖先系で、pdh1に突然変異したらしい。野生大豆はPdh1だが、栽培大豆の発祥地である中国では、在来品種でも約半分がpdh1を持っていた。また、中国の在来品種を主な起源とする北米の大豆では、ほとんどの品種がpdh1型になって、乾燥地の機械収穫で収量向上につながっていた。日本の在来品種の大半は、野生のままのPdh1型(易裂莢型)だった。

研究チームの船附秀行さんは「大豆が人類を支えるような主要作物になったのには、このpdh1遺伝子への変異が大きな役割を果たしたと考えられる。その意味で今回の発見は意義がある。莢をはじけにくくして、大豆の落ちこぼれを救う遺伝子がわかったので、日本でも大規模生産に適した難裂莢型への品種改良がより効率化されるだろう。同じように落ちこぼれが問題になっている他のマメ科作物やナタネなどの該当遺伝子探索の手がかりにもなる」と話している。