「10」が意味する新世代のWindows
既報のとおり10月1日(米国時間)、Microsoftは「Windows 10」を発表した。事前に「Windows 9」や開発コード名のThresholdをもじった「Windows TH」といった呼称が予測されていたが、ふたを開ければ「9」を飛ばして「10」を採用。関係者を驚かせた。
この数字を採用した理由や意味について詳しくは語られていないものの、OS担当EVP(エグゼクティブバイスプレジデント)のTerry Myerson氏は公式ブログで「新世代のWindowsにおけるファーストステップを表す」と述べている。発表イベントでは「本当は『Windows One』と名付けたかったが、彼がすでに使ってしまった」と、Microsoft創設者であるBill Gates氏の若い頃の写真を映しだした。
Build 2014でも言及し、関係者も語っていた"Windowsの再統合"を機として、キリのよい数字を選んだと推測するのが自然だろう。さらに今回の発表では「ワンプロダクトファミリー、ワンプラットフォーム、ワンストアー」というスローガンをあらためて披露した。これは、Microsoftが見据える今後の目標に合致するものとみていいだろう。
以前からMicrosoftはHPC(ハイパフォーマンスコンピューター)からクライアントPCまで、自社製品による統一を目標としてきた。そのためサーバーOSであるWindows Serverシリーズや、クラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureをリリースしている。
Microsoft CEO(最高経営責任者)のSatya Nadella氏は、iOSやAndroid用アプリケーションをリリースするなど、クラウド時代を見据えたマルチプラットフォームをアピールしている。10月1日に来日した際には、「(自社における)もっとも重要なリリースのひとつ」とWindows 10が持つ存在感の大きさをアピールしながら、「人々のエクスペリエンスを変えるOSだ」とワンプロダクトファミリーの強みを強調した。
このワンプロダクトファミリーは、タブレットやPC上で同じOS(Windows 10)が動作することを意味する。前述のMyerson氏やNadella氏が「スマートフォンでもタブレットでもPCでも、同じ(Windowsストアアプリ)コンテンツが動作する」と口にするように、Windows PhoneやWindows RTのコア部分を完全共通化し、再統合したのがWindows 10だ。
3つの"One"を目指すWindows 10
拙著記事で述べているように、Windows 10は多くの機能を新たに搭載してきた。スタートメニューの復活やWindowsストアアプリのウィンドウ化、スナップの機能強化、タスクビューボタン、仮想化デスクトップと枚挙にいとまがない。
Windows 10は、Windows Vistaから改良を重ねてきたカーネルと、Windows 7に改良を加えたUIという長所を兼ね備えたOSである。発表会でOS担当CVP(コーポレートバイスプレジデント)のJoe Belfiore氏が認めているように、多くのユーザーはタッチ操作が可能なモダンUIに興味を持たず、Windows 7を選択しているのが現状だ。
少々脱線するが、多くのユーザーがモダンUIを避けているのは理解できる。ただし、それはデスクトップPCやノートPCといった旧来の操作で最適化された環境に限っての話だ。確かに筆者も当初は違和感を覚えたものの、使い慣れてみれば決して悪いOSではないことは述べておきたい。
話を本題に戻そう。前述のとおりWindows 10はWindows 7時代の操作体系を活かすため、通常のPCはデスクトップ画面、タブレットはモダンUIのスタート画面構成となる。ただし、Surfaceのような2in1 PCの場合、その切り替えに手間が生じてしまう。この問題に対応するために、MicrosoftはUIを切り替える機能として「Continuum」をWindows 10に用意した。
キーボードを取り外すと、Windows 10ではデバイスの切り離しを認識して、Continuumウィンドウが現れる。ユーザーはここでデスクトップUIを使い続けるか、モダンUIに切り替えるか選択が可能になるとBelfiore氏は説明した。筆者の初代Surface ProではContinuumの動作は確認できなかったが、いずれにせよContinuumは、さらに今後増えるであろうWindowsタブレットを見据えた正しい実装である。
Windows 10は2015年中にリリース
Windows 10 Technical Preview for Enterpriseはすでに公開済み。今後のスケジュールとしてMyerson氏は、コンシューマー向け機能を2015年早期に明らかにすると語った。さらに2015年は、2008年以来となるハードウェア開発者向けカンファレンス「WinHEC」や、ソフトウェア開発者向けの「Build」も開催し、そこでもWindows 10について詳しく説明するそうだ。
2015年中のリリースを目標とするWindows 10だが、新たなアップデートプレビューを公開するのか、それもとサブスクリプションタイプのアップデートに移行するのか、現時点では明らかにされていない。また、既存Windowsユーザーのアップグレード料金などについても不明だ。
メジャーアップグレードというほどの変化が見られないのは、今後の進捗に期待すべきなのだろう。そしてWindows 10が本当に我々のPCライフを豊かにし、効率的な作業環境を提供する存在になり得るだろうか。楽しみと不安が入り乱れた気持ちで一杯、というのが筆者の正直な感想だ。
阿久津良和(Cactus)