今や国民の2人に1人はがんになり、男性の3人に1人、女性の4人に1人はがんで亡くなっている。がんは1981年以来、日本人の死因1位を占め続けている。その一方、医療の進歩で、がん全体の5年生存率は70%を超えた。がんは不治の病から、治る病気へと変わりつつあることが、国立がん研究センター中央病院などが参加する全国がん(成人病)センター協議会(全がん協、32病院加盟)の集計でわかった。

図1. がん生存率の改善(提供:国立がん研究センター)

国立がん研究センターがん対策情報センターは9月19日から、全がん協の基幹的がん専門病院で1997~2005年にがんと診断され治療された患者計30万症例を5年以上追跡調査してデータベース化し、約30種類のがん部位と病期(1~4期)、手術の有無、性別、年齢層ごとに5年間のがん患者の生存曲線を算出できるようにして、インターネットで情報提供を始めた。がん統計医学者らの知恵と汗の結晶のような情報公開である。

図2. 全がん協KapWebの累積症例数(いずれも提供:国立がん研究センター)

KapWeb(カップウェブ)と名付けて2年前に初めて公開したが、今回は2005年に診断された6万症例を追加して生存曲線の種類を増やし、情報の量と質の両面で増強して改訂した。こうした詳細ながん統計は世界的にも例がなく、英語版も作成して、世界に発信した。新しいKapWebの編集に当たり、同センターは患者や市民の意見も聞き、改善に努めた。

KapWebは、年齢層や性別ごとに細かい生存曲線を自分の希望に合わせて検索して計算できるのが特徴で、それぞれのがんの特性や平均的な治療成績がつかめる。一定期間生存した患者のその後のサバイバー生存率の曲線も出すことができる。長く生存した患者ほど生存率が改善する傾向がわかる。

全がん協データベースの生存率の推移をみると、5年生存率は1997年に診察されたがん患者の61.7%から、2005年の68.0%まで改善し、毎年平均0.7ポイントずつ改善したことがわかった。それ以降も、がん治療薬の普及などで治療成績は向上しており、現在の5年生存率は70%を確実に超えたとみられている。それぞれのがんの特性も把握でき、病期が進行した膵臓や肺のがんの生存率は依然厳しい実態もKapWebからうかがえる。

がんの生存率調査では5年後の生存確認が高くないと、精度が落ちる。この追跡率が90%以上の基準を満たす基幹的がん専門病院の症例を集計の対象にした。がんをめぐる情報が世にあふれて混乱も起きるなかで、「がん統計の信頼できる決定版」として、誰でも自由に使えるように公開した。ただ、「平均的な確率として推測するもので、ひとりひとりの余命を決定づける数字ではない。また、10年以上前にがんにかかった方のデータで、現在は医療の進歩により、さらに治療成績は向上していると考えてください」と注意を促している。

作成の中心になった三上春夫(みかみ はるお)千葉県がんセンター疫学研究部長は「症例数が増えて、いろんながんの生存率をより正確に測れるようになった。『がん患者を追跡調査するがん登録が何の役に立つか』という昔からの質問に対する答えである。今後も症例数を毎年6万ほど増やして統計を充実させ、再発がんの生存曲線や10年生存率も示すなど、患者らのニーズに応えたい」と話している。

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