米Intelは9日(現地時間)、サンフランシスコで開催中のIDFにおいて超小型のPlatformであるIntel Edison(以下、Edison)を正式発表した。これに関し、国内で事前の説明会が開催されたのでご紹介したい(Photo01)。

Photo01:説明を行ったのはインテル株式会社のIoTソリューション事業開発部 事業開発マネージャのDavid Ford氏

Edisonが最初に紹介されたのは、2014年1月にラスベガスで開催されたCESの基調講演である。この時には、ジャストSDメモリカードサイズの基板の上にQuarkコアを搭載したものであったが、今回発表されたのは、そこから少し構成が変化している(Photo02)。出荷開始はワールドワイドでは発表と同じ9日だが、日本ではちょっと遅れて10月となる。

Photo02:遅れる理由は、日本においては技適マークの取得に若干の時間が必要だからということらしい。なので、これに先んじて通販サイト(例えばMouserとか)などで購入することそのものは可能だが、そのまま国内で利用するのは電波法違反となる

EdisonのUsage Modelとしては、さまざまな組み込み用途向けを想定している(Photo03)。現時点で可能なものとして、ロボットやクアッドコプター、あるいは3D Fabricationマシンなどが挙げられるが、これらはいずれもハードリアルタイムに近いそれなりのリアルタイム性が求められる用途だ。

Photo03:利用者はMakerからメーカーでの試作、量産までを想定しているという。実際これを量産製品に組み込むことも可能とのことだった

また、リモートアセットはネットワークとLocation Service、それとセンサー類の統合が必要である。このほかAudio Processingがちょっとだけ異色だが、これはI2Sを搭載していることから付け加えたように思われる。

さてそのEdisonであるが、諸般の事情により、当初のSDメモリカードサイズから若干だが大きさなサイズとなった(Photo04)。とはいえ「ほとんどSDカードと変わらない」(Ford氏)としている。

Photo04:SDメモリカードのサイズは幅24mm、高さ32.0mmなので、幅が1mm、高さが3.5mmほど大きくなった計算になる

ちなみに厚みは3.9mmだそうで、SDメモリカード(2.1mm)2枚分よりはやや薄い程度に収まっている。外部のI/Fは70pinのコネクタに集約されており、あとは外部アンテナ端子があるだけである。

ではその「諸般の事情」とは何か? といえば搭載するCPUの構成が変わったことだ(Photo05)。CESの時にはQuarkプロセッサのみが搭載されていたが、最終的には100MHzで動くQuarkとは別に、500MHz駆動のSilvermont Dual Coreプロセッサも搭載されている。

Photo05:このうちExternal Interfaceに関しては、QuarkとSilvermontで共有するものが多く、構成次第でどちらからでも使えるようになるとの話だった。ただし2つのCPUが(I/F的に)どう接続されているのかは現時点では不明である

この理由について、「アプリケーションの動作を考えた場合、Quarkのままでも対応可能だが、やはり別にCPUを搭載したほうが良いという判断になった」(Ford氏)とのことである。

実はこういうパターンの製品は意外に多く存在する。代表例は(未出荷だが)Arduino Treなどが似たような構成である。

MCUとしてはAtmel ATmega32u4が搭載され、これとは別に1GHzのCortex-A8プロセッサ(TI Sitara AM335)が搭載されているというものだ。I/O制御そのものはMCUで行い、その上のフィルタリングとか、ネットワークスタックの動作はCPU側で行うという仕組みである。Edisonも似たような構成を考えているのではないかと思う。

そんなわけで、Edisonは広い範囲で利用されることを想定して開発されている、というか広い範囲で使ってもらいたいと思っているわけで、IntelからはEdison単体のほかArduino Expansion BoardとBreakout Expansion Boardの2つのみのソリューションが提供される。そのほかはパートナー企業からの提供となると説明する(Photo06)。

Photo06:この原稿を書いている時点ではまだ不明だが、恐らくIDFの講演あるいはプレスリリースの中で、もう少し具体的なパートナーからのソリューションが示されるのではないかと思われる

Edison Board for Arduino(Photo07)は、マザーボードの形になり、上にEdisonを搭載して利用する。こちらはArduinoのShieldをそのまま利用できるように、ということだがArduino Yunと違って5V Shieldは使えないっぽいのがちょっと残念である。

Photo07:ちなみにFord氏曰く「Arduino Yunの様なポジションになる」とのことだが、それよりも遥かにI/Oが多い気がする。もっともその分消費電力も遥かに高いが

もう1つのBreakout BoardはArduinoにとらわれない、もっと汎用的に利用できるボードである(Photo08)。もともとEdisonの1.8VのI/O信号がそのまま出ているので、ここに直接自社開発のデバイスをつなげたい、あるいは製品に組み込みたいといった場合に利用できるものとなる。

Photo08:こちらのBreakout Boardもそのまま最終製品に組み込んで出荷することが可能という話であった

これを支えるソフトウェア環境であるが、Yocto Linux上でC/C++/Javascript、それとArduino IDEが提供される(Photo09)予定だ。

Photo09:恐らくArduinoはQuark側のみのハンドリングで、Silvermontコア側はC/C++でプログラミングが必要になると思われる

このソフトウェア環境は、R1(Release 1)とあるように、出荷当初はまだ限られたものになる(Photo10)が、これに続いてR2(Release 2)の提供が予定されており、Photo09に出てきたVisual ProgrammingとかMCU Developerなど向けの環境はこのR2での提供になると思われる。ちなみにまだR2の提供時期は明確には決まっていないとの事だ。このSoftware Stackの構成をまとめたのがこちらである(Photo11)。

Photo10:R1ではYocto Linux 1.6がベースで、QuarkコアはOS無しでの動作となるが、R2では何らかのRTOSを使うことも可能になる(というか、可能にしたい)ようだ

Photo11:Silvermontコアを搭載するだけのことはあり、結構スタックが重厚である。とはいえ、IoT向けに何か作るとなるとこの程度のスタックは必要ではある。気になるのはI2Sのドライバが見当たらないことで、これはR2待ちなのかもしれない

ソフトウェアサポートなどは、ちょうどArduinoのようにIntel Maker Community経由のオンラインサポートという形になるとしている。この原稿を書いている時点ではまだ存在しないが、おそらく正式発表後にはEdisonのカテゴリが追加され、ここでさまざまなサポートとか情報交換がなされてゆくものと思われる(Photo12)。

Photo12:"All product documentation goes live Septempber"ということで、この記事が公開されるころにはもっと詳細なドキュメントがオンラインになっている可能性が高い

ということでEdisonについてざっくりご紹介させていただいたが、Edisonの目的はおそらく一部のIoT End Deviceと、あとはIoT Hubということになるだろう。ADCなどは搭載していないので、直接生のセンサをつなぐのは難しいが、ある程度Intelligent化したセンサならI2Cなどでつながるから、2chのI2Cがあればそれなりの数のセンサ類を接続、これをQuarkで取り込んでSilvermontに飛ばし、フィルタリングなり集約なりした後でWirelessで飛ばすといったHubの用途には最適である。

あるいはモジュールにアンテナまで含めて集約されているから、それこそクアッドコプターのコントローラとして動かすこともできるだろう(もっともチップ側のPWMはやや貧弱なので、別にモータ制御ユニットを用意する必要があるだろうが)。

問題なのは消費電力と価格であろう。Photo05に消費電力がまとめられているが、無線を利用しない場合の「待機電力は」13mWで、ちょっとバッテリー駆動向けの製品としては大きめである。怖いのは動作時電力が明確になってないことで、これがどの程度かは気になるところである。価格も結構なもので、Ford氏によれば

  • Edison : 50米ドル
  • Arduino Board : 85米ドル
  • Breakout Board : 67米ドル

となっている。恐らくArduino BoardとかBreakout BoardはEdisonモジュールも含んでの価格と思われるし、量産を前提に大量購入した場合の価格はもう少し下がるとは思うが、ちょっと高めである。

もちろんスペックを考えればこの程度の価格は妥当という気はするのだが、いかんせん最終製品の組み込みを前提とする場合、原価が50米ドル上がるのを許容できるケースはそう多くない様に思う。

個人的にはもう少し機能を落としていい(例えばBroadcom 43340は明らかにオーバースペック気味に思える)から値段を下げてほしかったところではある。このあたりを含めて、組み込み市場に本当に受け入れられるかどうかが興味あるところである。