VAIO株式会社では、「安曇野FINISH」という新たな手法を導入している。

安曇野FINISHとは、ODMモデルを含めたすべての最終品質チェックを、長野県安曇野の同社工場で行うものだ。ソニー時代は、中国のODMで生産したものは、中国で最終検査を行い、そのままユーザーの手元に配送していた。だが、この手法では、品質問題が起こりやすいのも事実だった。

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品質問題は、ソニーに限らず、中国生産を行っているPCメーカーに共通したものだ。

中国から直接配送されたもののなかには、ネジ止めが緩かったり、マニュアルの端が折れていたりといったことが度々見られている。ある外資系PCメーカーでは、中国生産されたPCで、ハードディスクがネジで固定されていなかったという問題が発生したこともあった。

各社とも大きな声では言わないが、どんなに品質管理を徹底しても、一部にはそうしたことが必ず起こるというのが、中国のODMに生産を委託しているPCメーカーの共通した意見だ。

VAIOが取り組む安曇野FINISHでは、一度中国で最終検査して出荷されたものを含む、すべての製品について、安曇野の生産拠点で再検査し、出荷する体制を整えたという。

「安曇野FINISH」は7月1日VAIO設立会見で発表された

関取高行社長は、「日本のお客様は品質に対しては非常に厳しい。日本の市場だけをターゲットとするVAIO株式会社にとって、日本のユーザーの品質に応えられる水準を確保するのは当然のことである。安曇野でワンストップし、すべてのPCを検査し、品質において確かなものを提供していく。モノづくりとして、求められる価値を、しっかりと提供していくということが安曇野FINISH」だとする。

同社では、具体的な着荷不良率の削減目標などを置き、安曇野FINISHによる品質向上の取り組みを自己評価していく考えだ。そして、ここで見つかった不具合は、すぐに中国の生産拠点にフィードバックし、改善へとつなげるといった、品質向上に向けたサイクルを構築することにもつながる。

花里執行役員は、「VAIOの製品を購入した人が、品質不良で失望してしまったということがあってはならない。これまで以上に、その点にはシビアに取り組んでいきたい」とする。

安曇野FINISHの外観チェック

安曇野FINISHのキーボードチェック

安曇野FINISHのビルドインストール

量販店店頭に展示しているポップでは、安曇野FINISHを次のように説明する。

「すべてのVAIOは、安曇野で専任の技術者が1台ずつ仕上げを行い、品質チェックを徹底しています。製品の品質に、自分たちで責任を持つために施す最終行程。それが安曇野FINISHです」。

当然、コストも上昇するだろう。あるPCメーカー幹部は、「この仕組みを導入するだけで、物流費用や開梱作業、検査費用、在庫スペース費用などで、1台あたり2,000円ほどのコスト上昇につながるのではないか」と試算する。

それでも、VAIOは、品質優先の姿勢を取ったというわけだ。

量販店店頭でのVAIOのポップ。安曇野FINISHを説明したパネルが置かれている

安曇野FINISHにはもうひとつの役割がある。

「安曇野のモノづくりの拠点を活用して、安曇野ならではの付加価値をなにかつけられないのか――。そこに安曇野FINISHのもうひとつの意味がある」と、関取社長は語る。

その取り組みを関取社長は「コトづくり」という言葉で表現する。

「我々がお客様に対して、『こきゃく』と語る場合には、『顧客』ではなく、『個客』と表現している。お客様は一人ひとり求めるものが違う。一人ひとりのお客様に対して、求めるものを提供するには、『コト』への取り組みが重要な意味を持つ」と関取社長は説明する。

コトづくりの姿は、現時点ではまだ見えにくい。

例えば、わかりやすくいえば、企業から一括受注した際のキッティングを安曇野で受けるといったことも、コトづくりだろう。ソニー時代から一部製品で対応していたディスプレイ部へのフィルターの貼り付けサービスなども、安曇野の拠点を利用することで提供できる。

さらに、これまではソニーのロゴ管理ルールで難しかった、天板やパームレスト部への刻印サービスといったことができるようになるかもしれない。つまり、VAIOのロゴを外して、自分の名前を刻印するといったことが、VAIO株式会社になって可能になるともいえるわけだ。

「安曇野ならではの品質を維持しながらPCを出荷することに加えて、ビルドを変えたい、壁紙を変えたいという企業ユーザーの細かいニーズなどにも柔軟に対応できる」。ソニー時代にはできなかったサービスの創出も期待できるかもしれない。

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長野県安曇野市の長野ビジネスセンター前にある「VAIOの里」の碑

関取社長は、「単なる工業製品として提供するだけでなく、生産拠点から生まれる、生産拠点ならではのコトづくりができないかと考えている」とする。そして、関取社長は「安曇野」をブランディングすることも視野に入れているという。

先行しているシャープの「亀山モデル」、富士通の「出雲モデル」といった取り組みにも似ているが、「安曇野」のブランディングでは、「モノづくり」だけでなく、「コトづくり」を視野に入れた点が特徴になるといえそうだ。

「VAIOが対象にしているのは日本市場。『安曇野』の価値が伝えやすいのではないか」と関取社長は語る。

一方で、販路を担当するソニーマーケティングの河野弘社長も、「VAIOにとって、大事な役割を果たすのが、安曇野という価値。安曇野FINISHには、品質保証だけに留まらない価値がある。安曇野の価値を、マーケティングメッセージに乗せて、強くアピールしていきたい」と語る。

安曇野FINISHは、VAIOの代名詞となりうる、本気で品質を追求するための仕掛けだといえよう。