2014年2月、ソニーによるPC事業売却が発表されたとき、関取社長は自らこの仕事を受けようと決意したという。

「私自身、ソニーのPC事業に関わってきた者として、このままVAIOを無くしていいのかという強い想いがあった。VAIOを残すためには、しっかりと再生させてなくてはならない。そうした想いから、社長という職務を引き受けた」とする。

そして、「@安曇野」プロジェクトに関わった際の安曇野の社員たちの、真摯に、そして真剣に取り組む姿勢を、新たな体制のなかで生かしたいということも強く感じたようだ。

「いっちょ、やったるか!」。そんな言葉で、その時の気持ちを表現する。

VAIOの関取高行社長(左)と赤羽良介副社長(右)

一方で赤羽副社長は、PC事業の売却発表を「言葉では表現できないぐらいのショックを受けた」と語る。長年、VAIOの開発に携わり、事業を推進してきた赤羽副社長にとって、それは当然のことだろう。

しかし、同時にこうも考えたという。「次もVAIOを買いたいというお客様が絶対にいる。そうした人たちの期待に応えたい、という思いが沸々と湧き上がってきた」。ショックに落ち込んでいる間はなかった。

「前向きに捉えれば、PC事業は消滅するのではなくて、新たな形でスタートすることができる。これまで様々な国や地域、幅広いターゲットを対象に展開していたモノづくりから、地域やターゲットを絞り込んで、深く刺さり込むモノづくりができるようになる。そこをやってみたい。そうしたチャンスができた」。

赤羽副社長は、新たな体制への移行を、むしろチャンスに捉えたといっていい。

7月1日のVAIO設立記者会見では、赤羽副社長も登壇した(左)。中央は関取高行社長、右は花里隆志執行役員

では、社長の立場で、もう一度VAIOの再生に取り組むことになった関取社長は、今度は、どんな役割を果たそうとしているのだろうか。

「私は、発明家でも、アイデアマンでもなく、技術に詳しいわけでもない。きちっとマネージすること、筋を追うことに私の役割がある。だから、知らないことは知らないというし、細かいことは任せる。筋をしっかりと追うことはきっちりとやっていく」とする。

関取社長は、取材のなかでも「筋」という言葉を何度も使った。

「私自身、いろいろなことを考えすぎて、頭の中がいっぱいになってしまうことが多い」と笑いながら、「ただ、そのなかから、なにが筋なのかということを捉えることにしている。筋を決めると、なにをやるべきかが見えてくる」とする。

そして、VAIO株式会社においての「筋」とは、「PCの基本を忘れてはならない」、「VAIOの強みはなにかということを忘れてはならない」ということだという。

その上で、関取社長は、社員に「集中すること」を徹底したという。これは、赤羽副社長が指摘したソニーのPC事業失敗の要因にも通じる話だ。関取社長はこう続ける。

「集中するといっても、どうすればいいのかわからない人が多い。そこで、やらないことを決めようと社員に提案した」とする。

VAIOの関取高行社長

関取社長は、100%目一杯で100の仕事をすると、結果として、集中できないということにつながり、生産性は50ぐらいにまで落ちてしまうという考え方を持っている。むしろ、10%の余力を残しながら仕事をすると、発想やアイデアにも広がりが生まれ、生産性が120ぐらいに高まることがあるとする。これは関取流の独特の考え方だといえよう。

VAIO株式会社が、当初取り扱う製品を3機種に絞り込んだのも、やらないことを決めた結果ともいえる。

「最初のターゲットユーザーは、従来からのVAIOのロイヤルカスタマーであり、ビジネスパーソン。すると、それにあった販路や商品、サービスはなにかということが自ずとわかってくる。日本国内に市場を絞り込む、あるいはBtoBの領域にVAIOらしく攻め込んでいくということも、やらないことを決めたからこそ明確化したものといえる。筋を見極めて、絞り込んでいけば、残るのは本質だけ。まさにタマネギの芯と一緒」。

やらないことを決めると、最終的に残るのは、「やるべきこと」だけ。これが、関取社長がいう「筋」である。

「一本筋であることのリスクもある。しかし、いま、VAIO株式会社が取れる戦略は、やらないことを決めて、そこから出てくる、やるべきことに絞り込むことに尽きる」。

「本質+α」というコンセプトも、筋を追うという関取社長の経営姿勢を示した結果だといえるだろう。

7月1日の記者会見でも、「本質+α」はVAIOの姿勢を示す重要なワードとされた