神経培養細胞が分泌するナノ顆粒のエクソソームを投与すると、アルツハイマー病の発症原因とされる脳内アミロイドベータ(Aβ)濃度が低下してアミロイド斑の蓄積も減ることを、北海道大学大学院先端生命科学研究院の湯山耕平特任助教と五十嵐靖之特任教授らがマウスの実験で突き止めた。エクソソームがアルツハイマー病の発症に関わっている可能性を示すもので、新しい予防や治療につながりうる成果として注目される。7月18日付の米科学誌The Journal of Biological Chemistryオンライン版に発表した。
研究グループは2012年の論文で、神経培養細胞から放出されるエクソソームがAβを除去する能力を持つことを培養細胞の実験で報告したが、実際に脳内のAβに有効かどうかが課題として残っていた。今回、遺伝子操作して脳内のAβが過剰発現するようにしたアルツハイマー病モデルマウスの脳に、神経培養細胞が分泌するエクソソームを浸透圧ミニポンプで2週間持続投与し、Aβの変動を解析した。
その結果、マウスの脳内Aβ濃度の低下、シナプス障害の軽減、アミロイド蓄積の減少が起きた。いずれも、アルツハイマー病の症状改善に相当する現象で、生体の脳でも、エクソソームが有効であることを実証した。さらに、エクソソームの脂質二重膜は元の神経細胞の膜と比べて、スフィンゴ糖脂質が豊富に含まれており、この糖脂質を介してAβと結合することも確かめた。エクソソームはAβをくっつけて、脳内のミクログリアに運び込んで分解する。その仕組みを明らかにした。
湯山耕平特任助教は「エクソソームの脳内Aβ除去能力の発見は、アルツハイマー病の薬の開発に新しい切り口を提供するものだ。神経細胞がエクソソームの分泌を増やすように誘導したり、外部から脳に注入したりするなどの方法は、アルツハイマー病の予防や治療に役立つ可能性がある。また、エクソソームが、中身のマイクロRNAなどでなく、その膜に存在する糖脂質を使って機能することを示したのも初めてで、研究の新しい手がかりになる」と話している。