産業技術総合研究所(産総研)は、筑波大学や明治大学などとの共同研究により、筋運動の調節には、脳の「筋肉の運動」を司る部位だけでなく、「やる気」を司る部位も関係していることを発見したと発表した。

同成果は筑波大学大学院 人間総合科学研究所の九里信夫 大学院生、産総研 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 システム脳科学研究グループの高島一郎 グループ長(兼 筑波大学 人間総合科学研究科 教授)、明治大学 理工学部 電気電子生命学科の梶原利一 准教授らによるもので、詳細は6月25日付の米科学誌「The Journal of Neuroscience」に掲載された。

リハビリテーションの治療では、動かしにくい筋肉を動かそうとするトレーニングによって機能回復を目指すが、やる気が高い方が良好な機能回復をもたらすといわれている。しかし、脳の中のやる気を司る領域と運動を司る領域を結び付ける神経回路についてはほとんど分かっていなかったという。

今回の研究ではラットをモデルとし、やる気を司ると考えられている「腹側被蓋野」を活動させた際に、筋運動を司る「一次運動野」がどのような反応を示すかと、それによる脳の運動出力を調べたという。

その結果、「一次運動野」へ単独では動かない程度の弱い刺激を与えた際、「腹側被蓋野」が10ms早く活動することで筋肉を動かす補助をする働きを担っていることが観察されたほか、逆に強い刺激を与え、単独でも筋肉が動く状況にした場合、「腹側被蓋野」が40ms早く活動することで筋肉の動きを抑える働きになっていることが観察されたという。

今回の成果について同研究グループでは、やる気を司る脳部位が、数10msのタイミングで筋活動の亢進や抑制したりする必要性については現時点では不明だが、やる気を持って複雑な筋肉の動きを制御するためには、アクセルとブレーキの微妙な調整が必要なのかも知れないとコメントしており、日常においても、「腹側被蓋野」が「やる気」と「運動」に関わる領域の脳活動を同時に、合目的的に調節していることが示唆されたとしている。今後は、リハビリ訓練を行っている過程において、両部位間の脳活動にどのような相関がみられるかの解析を進めることで、リハビリの励みとなる科学的な論理の解明が進み、そうした背景に基づく新たなニューロリハビリテーション技術の開発につながることが期待されるようになるとするほか、将来的には腹側被蓋野の脳活動を実験的に操作することによりリハビリ効果に改善がみられるかどうかについても検証実験を進める予定だとしている。

「腹側被蓋野」の活動が、一次運動野を興奮または抑制させる様子を画像化したもの。今回の研究では、一次運動野に誘発されたこの脳活動が、上腕における筋活動を調節したことを確認したという