最高エネルギー宇宙線は深い謎に包まれている。その猛烈な宇宙線が過剰に飛来する「ホットスポット」の兆候を初めて北半球の空で捉えた、と東京大学宇宙線研究所などのグループが7月8日発表した。米国ユタ州のTelescope Array(TA)宇宙線観測装置で5年間観測して、最高エネルギー宇宙線源の一端が見えてきた。7月の米天文学誌Astrophysical Journal Lettersに論文を掲載、世界の29研究機関から126人が参加する国際共同研究グループの長い努力の成果である。

図1. TA宇宙線観測装置の配置図。縦軸が南北方向、横軸が東西方向。507台のプラスチックシンチレータ地表粒子検出器(□)が、東京23区より広い領域に1.2km間隔で碁盤目状に設置されている。周りに3か所に大気蛍光望遠鏡(■)がある。(右上)は砂漠の中の地表粒子検出器。(右下)は大気蛍光望遠鏡ステーション。(提供:東京大学宇宙線研究所TAグループ)

広いエネルギー領域にわたって宇宙線はあらゆる方向から等しく地球にやってくる。これまでに観測された宇宙線の到来方向では、「特別な方向」は見つかっていなかった。東京大学宇宙線研究所を中心とした国際共同研究グループは、米国ユタ州に建設したTA宇宙線観測装置で2008年から5年間取得したデータを解析し、5.7×1019電子ボルト以上の最高エネルギー宇宙線が過剰に飛来するホットスポット(直径40度の範囲)の兆候を見つけた。

図2. TA宇宙線観測装置の観測のイメージ。最高エネルギー宇宙線が大気中に入射した際に生成される空気シャワーからの2次粒子を地表粒子検出器が検出し、空気シャワーから発生する大気蛍光を大気蛍光望遠鏡が捉える。(提供:東京大学宇宙線研究所TAグループ)

図3. (a)5.7×1019電子ボルト以上のエネルギーをもつ最高エネルギー宇宙線72事象(青い点)の到来方向の分布。(b)最高エネルギー宇宙線到来方向の有意度の分布。赤色の部分が有意度の高いホットスポットで、青色は有意度が低い領域。白い破線より上がTA実験で観測できる範囲。(提供:東京大学宇宙線研究所TAグループ)

このホットスポットは、北斗七星を含むおおぐま座の足元の方向にあり、その領域の大きさは北半球の空の6%に相当する。TA宇宙線観測装置が5年間で観測した最高エネルギー宇宙線は72事象あった。最高エネルギー宇宙線が等方的に到来すると仮定した場合、直径40度の円内から来る最高エネルギー宇宙線の数は4.5事象と予想されるが、実際には、72事象の26%に当たる19事象が到来していた。この偏りが偶然に現れる確率はわずか10万分の37と算定できた。

最高エネルギー領域の宇宙線は、100平方kmの地表(山手線の面積程度)に1年に1例観測される程度のごくまれな現象。TA宇宙線観測装置は北半球で最大の宇宙線検出器で、東京23区よりやや広い700平方kmの米国ユタ州の砂漠(標高約1400m)に、地表粒子検出器507台を1.2km間隔の碁盤目状に展開して、最高エネルギー宇宙線が地球大気に入射して発生する空気シャワーを検出するようにした。1000億個を超える低エネルギー粒子群の空気シャワーが発する大気蛍光は、周りに設置した3台の大気蛍光望遠鏡で検出した。

最高エネルギー宇宙線は途中の天体や物質の影響を受けずに直進してくると考えられており、線源を絞り込めば、発生した天体がわかる。今回見つかったホットスポットの方向には、特に知られた高エネルギー天体はないが、少しずれた方向には銀河の集団がある。宇宙線がどのように1020電子ボルトに至るエネルギーを獲得しているかは宇宙物理学の大きなテーマといえる。そのエネルギーは世界最大の加速器LHC(欧州)の1000万倍にも達し、人類が経験できる最高エネルギー現象でもある。最高エネルギー宇宙線源の候補としては、活動的な銀河核やガンマ線バースト、超強磁場をもつ中性子星などが想定されている。

研究グループの川田和正(かわた かずまさ)東京大学宇宙線研究所特任助教は「最高エネルギー宇宙線源があるのは理論的に約1.5億光年以内に限られる。今後最高エネルギー宇宙線の観測例を増やして、これら宇宙線の発生源となるような宇宙現象を突き止めたい。観測数を増やせば、複数のホットスポットが見つかる可能性もある。この観測は、新しい極高エネルギー粒子天文学を開拓することにもなる」と話している。