東北大学は6月2日、グラフェンをSi基板上に3次元集積的に成長させることに成功し、さらに同方法により、金属性と半導体性にグラフェンの物性を作り分けることにも成功したと発表した。

同成果は、東北大 電気通信研究所の吹留博一准教授、末光真希教授らによるもの。東北大大学院 工学研究科の川合祐輔助教、尾嶋正治特任研究員(東京大学 放射光連携研究機構 名誉教授)、高輝度光科学研究センター(JASRI)の小嗣真人博士、東京大学 放射光連携研究機構の堀場弘司氏(現 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所)、東北大 多元物質科学研究所の永村直佳助教らと共同で行われた。詳細は、Nature Publishing Groupの「Scientific Reports」のオンライン版に掲載された。

炭素の2次元物質であるグラフェンは、Siの100倍以上のキャリア移動度を有するのに加え、熱的・化学的にも安定な物質である。このため、2020年頃に終焉を迎えると言われるSi集積回路の代替となる次世代デバイス材料の1つとして、開発が進められている。

研究グループでは、既存のSiデバイスとの融合を企図した、Si基板上へのグラフェン(GOS)の作製およびそのデバイスの研究開発を行ってきた。GOS技術は、Si基板上に単結晶SiC薄膜を成長させ、このSiC薄膜表面にグラフェンを形成するという技術である。同技術は、Si技術の利用が可能であるため、グラフェンの実用化に向けて重要な技術になると期待されている。さらに、Si基板の面方位を適切に選択することにより、グラフェンの物性を金属性と半導体性に作り分けることが可能である。また、同技術とSi微細加工技術を用いて異なる面方位を露出させることにより、グラフェンの物性をナノスケールで作り分けることが可能となると考えられているという。

そこで今回、MEMS技術を用いて、Si(100)基板上にSi(100)面に加え、Si(111)微斜面を作り込んだ。この基板上にSiC薄膜を作製し、試料を1250℃で加熱することにより最表面にグラフェンを作製した。その結果、当初の狙い通りに、Si(111)微斜面上では半導体性グラフェン、Si(100)上では金属性グラフェンを作り分けることに成功した。半導体性グラフェンは電子デバイスの応用に、金属性グラフェンは光デバイスの応用に適しているという。このように、同一Si基板上に異なる機能を有するデバイスをグラフェンを用いて作製することに成功した。このことは、同一Si基板上にグラフェンを用いた電子デバイス・光デバイスを混載させた超高速回路の作製が可能となることを示唆しており、テラヘルツデバイス開発へ向けた大きな前進であると言えるとしている。

今後は、作製したグラフェンのさらなる高品質化を行い、グラフェンデバイスの高性能化を図っていく。さらに、電子・光混載デバイスの必要な技術を1つ1つ確立し、将来的にはグラフェンの電子・光集積回路を目指すとコメントしている。

グラフェンの物性の作り分け(多機能化)

微細加工Si基板上へのグラフェンの成長

微細加工Si基板上でのグラフェンの作り分け