図1. カーボンナノチューブが炎の中で合成されていくイメージ
(提供:名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所)

炭素が筒状に連なったカーボンナノチューブの合成と炭化水素燃焼の間に類似性があることを、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所のステファン・イレ教授らが量子理論を使ったコンピューターシミュレーションで見いだした。燃える炎の中で成長するナノチューブの芸術的なイメージ図でその解析結果を示した。京都大学、米オークリッジ国立研究所、中国科学院との共同研究で、米炭素協会の科学誌カーボン3月号に発表した。

カーボンナノチューブはこれまで、高温・不活化ガスの存在下で、炭化水素ガスの化学蒸着法(CVD法)で合成されてきた。しかし、この方法では、ナノチューブの直径や側面の構造を制御できないという問題があり、より有用な合成法が求められていた。

研究グループは、触媒の鉄の粒子とアセチレンを用いて、ナノチューブが生成する反応をコンピューターでシミュレーションした。従来の研究では、炭化水素が完全に炭素原子に分解されたあと、ナノチューブが形成されると報告されていたが、今回のシミュレーションで、主にアセチレン同士の結合が起こっていることがわかった。このプロセスは、炭素燃料の燃焼で見られる水素の引き抜き、アセチレン付加の仕組みによく似ていた。

図2. カーボンナノチューブの合成の仕組み

一般に燃焼は、水素の引き抜き、生成したアセチレン付加が繰り返され、すすもできている。ナノチューブの生成過程にも、同様の中間体が確認された。水素を多く含む炭化水素は、ナノチューブ以外の副生成物をつくり、水素が少ない炭化水素はナノチューブを生成することが、今回のシミュレーションで明らかになった。

この研究は2000年に始まった。強く結合している炭素や水素のすべての分子の振る舞いを計算するのは、非常に難しかったが、より早い計算方法を確立して、まったく異なると考えられていたナノチューブ合成と炭化水素燃焼の共通点を発見した。

ステファン・イレ教授は「この研究は、カーボンナノチューブの合成、炭化水素の燃焼への理解を深めるのに貢献するだろう。ナノチューブ合成やすすの生成を制御する、水素量の調整など新しい要素も提案できた。今後、さらに早い計算ツールを開発して、ナノチューブ合成や燃焼の研究を発展させたい」と話している。