光合成は人類を含むあらゆる生物の栄養の源になっている。長年の重要な研究テーマだが、タンパク質の巨大な複合体が関わる複雑な反応のため、謎がまだ残っている。その解明の突破口になるような構造解析を日本のグループが成し遂げた。光合成細菌の反応中心と集光アンテナのタンパク質との複合体の結晶構造を放射光のエックス線で解析したのだ。京都大学理学研究科の三木邦夫教授、竹田一旗講師、丹羽智美大学院生、茨城大学理学部の大友征宇教授らの成果で、3月26日に英国科学誌ネイチャーのオンライン版に発表した。

図. マゼンタ色の光合成反応中心(RC)の周りを緑色の集光アンテナ(LH1)が取り囲む分子構造。
Bは集光アンテナのバクテリオクロロフィル(紫色)の配置で、吸収した光は反応中心にあるバクテリオクロロフィル(赤紫色)に集められる。

光合成は、太陽光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からデンプンなど糖類を合成する。まず光エネルギーが化学エネルギーに変換される。この反応は、タンパク質の集光アンテナや光合成反応中心の複合体によって担われている。この巨大な複合体はこれまで低い分解能でしか解析されておらず、詳しい構造はよくわかっていなかった。

三木邦夫教授らは、高等植物よりも単純で原始的な光合成細菌から集光アンテナや光合成反応中心を分離、精製して複合体を結晶にした。放射光施設のSpring8(兵庫県・西播磨)とPhoton Factory(茨城県つくば市)でこの結晶のエックス線回折を行った。そのデータを0.3ナノメートルまで詳しく解析して、光合成反応複合体の構造を突き止めた。

集光アンテナが光合成反応中心を楕円状に取り囲み、太陽から降り注ぐ光を化学エネルギーに変換しやすい様子がうかがえる。集光アンテナには、光を吸収するバクテリオクロロフィル32個が手をつなぐようにリング状に集合体を形成し、反応中心にあるバクテリオクロロフィルに光エネルギーが集める構造になっている。集光アンテナと反応中心の間にはすき間があり、光合成によって変換された化学エネルギーを運搬するユビキノンの通り道になっている可能性も浮かび上がった。

研究グループは「光合成のエネルギー伝達の理論的な解明につながるよう期待している。人工光合成の色素の設計などのヒントにもなるだろう。今後も、光合成に関するタンパク質同士の相互作用などを構造生物学の視点から研究していきたい。」としている。

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