大村智(おおむら さとし)北里大学特別栄誉教授(78)が、医学への顕著な業績に与えられるガードナー国際保健賞に選ばれた。カナダのガードナー財団が3月26日発表した。授賞理由は「抗寄生虫活性の非常にある物質を産生する細菌を発見し、米メルクと共同で多くの寄生虫病に有効な治療薬イベルメクチンを開発。この薬による熱帯の風土病のオンコセルカ(河川盲目症)の撲滅活動への寄与」。

写真1. 信条の言葉「実践躬行」の書を掲げる大村智さん

写真2. 北里研究所(東京・白金)の玄関脇にあるオンコセルカ撲滅運動を記念した銅像

大村さんは山梨県生まれ。日本学士院会員、文化功労者、女子美術大学理事長でもある。長く北里研究所で細菌からの生理活性物質の新薬開発に携わってきた。特に1970年代半ば に静岡県伊東市の川奈の土壌から採取した細菌は、優れた抗寄生虫活性物質エバーメクチンを産生した。その分子構造を少しだけ変えて、米メルクが大村さんと共同でイベルメクチンを開発、1980年代から世界で最も売れる動物薬に育てた。ヒトの寄生虫病への薬としても有効で、熱帯の風土病として多くの人々を苦しめているオンコセルカやフィラリア症などの予防に役立つことがわかり、メルクは無償でこの薬を大量に提供、撲滅運動が世界保健機関(WHO)の主導で進み、途上国の衛生環境の改善に著しく寄与し、約2億人を救っている。

ガードナー国際賞は1959年に創設され、受賞者からは多くのノーベル賞受賞者が出ている。日本人はこれまで利根川進さんや山中伸弥さんら9人が受賞したが、2009年から始まったガードナー国際保健賞は大村さんが日本人として初めて。

授賞式は10月30日、トロントで行われ、賞金10万カナダドルが(約930万円)が贈られる。

大村智さんは「オンコセルカなどの撲滅運動は世界中のたくさんの人々が関わっている。すべては、私たちが見つけ出した細菌から始まった。極めて有用な抗寄生虫活性物質を作る菌が根っこになければ、現在のオンコセルカ撲滅運動はなかった。その最初の仕事が認められたのはよかった」と受賞決定を喜んだ。