物質・材料研究機構(NIMS)は3月25日、主構成元素として「金」を含む新しい超伝導体「SrAuSi3」の合成に成功し、絶対温度1.6度(摂氏-271.55℃)の低温で超伝導を示すことを確認したと発表した。

成果は、NIMS 超伝導物性ユニット・強相関物質探索グループの磯部雅朗グループリーダー、同・吉田紘行博士研究員、同・表界面構造・物性ユニットの木本浩司ユニット長、同・理論計算科学ユニット・材料特性理論グループの新井正男主幹研究員、同・室町英治理事らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、3月25日付けで米化学会学術誌「Chemistry of Materials」に掲載された。

「クーパー対」(=2つの伝導電子からなる対)の形成は、超伝導現象を電子論的に説明する「BCS理論」により、対称性の高い空間においてのみ実現されるとされている。ところが近年、その従来の常識に反した対称性の低い空間(「反転対称性」を持たない結晶構造の物質)において、「空間反転対称性の破れた超伝導」が現れることが実際に見出されるようになってきた。

理論的にそのような系では、クーパー対の波動関数は偶関数、奇関数のどちらか(パリティ)に固定されるのではなく、「パリティ混合超伝導」と呼ばれる、異常な電子状態が発現することが示唆され、その理論予想を実験的に検証する試みがなされているところだ。

今回発見されたSrAuSi3は、「BaNiSn3型構造」(一般化学式:AMX3(M=遷移金属元素))と呼ばれる一連の化合物群に属している。そして、この系の電子構造を決める最も重要な元素が遷移金属元素Mだ。空間反転対称性の破れた超伝導では、スピン・軌道相互作用が強く働くことが重要であり、それは原子の重さ(原子量)に強く依存する。これまではM元素として比較的重い、RhやIr、Ptなどを含む化合物が知られていたが、今回は高圧合成法を用いることで、さらに重い原子であるAu(金)を含む同型の化合物を合成することに成功したというわけだ。

またSrAuSi3の電子構造が理論計算解析されたところ、従来物質のものとはかなり異なることが判明。原子番号の大きな金で置き換えたことで、電子数が増加したことに加え、スピン・軌道相互作用が強まったことが理由と考えられるという。さらに、伝導電子には、スピン・軌道相互作用の影響を受けているものが存在することも確認された。もし、この電子が超伝導を担っているとすれば、異常な超伝導状態が実現しているかも知れず、今後、実験的な検証をより進めていく必要があるとしている。

空間反転対称性の破れた超伝導において予想される性質の1つとして挙げられているのが、「上部臨界磁場」(超伝導を保持できる最大の磁場の値)が極めて高くなるという点だ。これは、クーパー対のスピンの向きがスピン・軌道相互作用によって特定方向に強く固定され、外部磁場ではその向きを容易に変えることができなくなるために起こるものである。

この優れた特徴を有効に引き出すためにも、その電子状態の詳細を明らかにすることは、とても重要だという。そして、今回の新物質の発見は、空間反転対称性の破れた超伝導のメカニズム解明、ひいては、磁場に強い新たな超伝導材料の開発につながるものとして期待されるとしている。

画像1(左):SrAuSi3の結晶構造。画像2(右):SrAuSi3の走査透過型電子顕微鏡(STEM)格子像