産業技術総合研究所(産総研)は3月6日、沖縄県硫黄鳥島の西方海域の浅海において、海底火山を発見したこと、ならびに硫黄鳥島北方海域にて、多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動域を発見したことを発表した。

同成果は、産総研 地質情報研究部門 資源テクトニクス研究グループの下田玄 研究グループ長らによるもの。20135年10月25日~11月14日に海洋調査船「第七開洋丸」(499トン、芙蓉海洋開発 所有)により沖縄県硫黄鳥島の周辺海域の海洋地質調査を実施した成果となる。

火山国である日本では陸地にある火山ではなく、海底火山の活動により新しい島が生まれるといったことがあるほか、浅海部の火山の場合、高温のマグマと海水の接触による爆発的な噴火が起こるものがあることが知られている。また、火山弾・火山灰の落下や「ベースサージ」と呼ばれる低温・高速の火山性重力流が発生し、火口から数kmの範囲の海面上に被害をもたらすこともあり、噴火の可能性のある海底火山を事前に把握しておくことは、火山防災の観点から重要となっている。

一方で、海底での火山活動は熱水活動を伴うため、海底鉱物資源をもたらすことがあることも知られている。日本は世界有数の広大な領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚を有する国家であり、そこに賦存する海底資源は将来の安定的な資源供給源として重要な意味合いを持つこととなる。

産総研ではそうした日本周辺海域の地質情報整備に向けた海洋地質図の作成・出版を継続して行ってきたほか、併せて日本の領海・排他的経済水域・大陸棚において、エネルギー・鉱物資源の調査に資する研究も進めてきた。近年の調査としては、平成22/23年度に久米島西方海域で複数のカルデラ地形を伴う海底火山を確認したほか、新たな海底熱水活動も発見している。また平成25年度には、海洋資源調査船「白嶺」およびその搭載観測機器を用いて海洋地質調査を実施し、新たな熱水活動域を発見することに成功している。今回の調査は、そうした航海で得られた海洋地質情報を検討した結果を踏まえ、硫黄鳥島周辺海域で行われたという。

海洋地質調査の実施場所。黒丸が久米島西方海域、赤丸が徳之島西方・硫黄鳥島周辺海域

実際の海洋地質調査は、マルチナロービーム測深機(MBES)による広域で詳細な海底地形調査、サブボトムプロファイラーによる表層地層探査、計量魚群探知機による音響異常調査、ドレッジとグラブ採泥器により海底の岩石と堆積物の採取が行われた。

MBESにより、硫黄鳥島堆と呼ばれる海底の隆起部が複数のカルデラから構成される大型の火山であることが判明した。

MBESによる地形調査結果。右から4番目、下から5番目のマスにある、ひょうたん型の黒い場所が硫黄鳥島

また、計量魚群探知機の調査から、プルーム状の音響異常が確認されたことから、当該海域を有索式無人潜水艇(ROV)にてリアルタイム海底観察したところ、複数の海底面からのガスの発泡と熱水の噴出口を確認したという。熱水活動や発泡活動が確認できた地域の1つは水深が200m以浅であり、熱水活動がさらに活発化すると、その影響が海面上にまで及ぶ可能性があるため、日本周辺の海運の安全を確保する上で、この発見は重要な情報となると研究グループでは説明する。

計量魚群探知機で観測されたプルーム状の音響異常。(左)火山山頂部で確認された水深200 m以浅の熱水活動。(右)火口状地形で確認された熱水活動。色の違いは反射強度を示しており、赤は強い反射、青が弱い反射となる

ROVが撮影したガスの発泡と熱水の噴出口

また、硫黄鳥島周辺海域の海底より火成岩である玄武岩、安山岩、デイサイト、流紋岩を採取。特に北方海域の調査では、プルームを確認したほか、ドレッジにより、「多金属塊状硫化物」を採取したという。「多金属塊状硫化物」の生成は、有用元素が海底下で濃集する過程が存在することを示すもので、世界中の熱水活動域として500カ所以上が報告されているが、高温の熱水噴出を伴うのは約300カ所であり、その中で塊状硫化物が発見されたのは165カ所しかないという。

なお研究グループでは今回の調査結果について、硫黄鳥島堆がごく浅海の活動的な海底熱水活動の密集地帯であることを示すものであり、火山防災上万全を期す観点から、すでに海上保安庁と情報を共有しているほか、気象庁火山噴火予知連絡会にも報告し、活火山に該当するかどうかや噴火活動に至る危険があるかどうかなどが検討を進めてもらう予定だとしている。

また、硫黄鳥島北方海域で明らかとなった多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動については、今後、経済産業省およびJOGMECとの連携を図り、資源ポテンシャルなどに関するさらなる検討を行っていく予定だとしている。