名大など、「緑膿菌」に対する新しい作用機構の人工タンパク質を開発

名古屋大学(名大)は2月5日、理化学研究所(理研)、山口大学との共同研究により、多剤耐性菌による院内感染が社会問題となっている「緑膿菌」に対する新しい作用機構の「増殖阻害人工タンパク質」を開発したと発表した。

成果は、名大大学院 理学研究科 物質理学専攻の渡辺芳人教授、同・荘司長三准教授、同・大学院生の白瀧千夏子氏、理研 播磨事業所の城宜嗣主任研究員、同・杉本宏専任研究員、山口大 農学部の小崎紳一教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2月5日付けでドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

緑膿菌は、ヒトを含む動物の体内や、特に水回りなどの環境中に生息するグラム陰性桿菌だ。通常、健常者には害はほぼないが、高齢者など免疫力が低下している人が観戦すると死に至る場合がある。さらに、多剤耐性菌の出現による院内感染が社会問題となっている細菌でもあり、多剤耐性緑膿菌を殺菌する新しい手法の開発が待ち望まれている。

緑膿菌が恐ろしいのは、体内に感染すると、不足する鉄分を得るために、「ヘム鉄」(画像1)と呼ばれる鉄含有化合物の獲得を目的として、ヘム鉄獲得タンパク質「HasA」を分泌し、赤血球中に豊富に存在する酸素運搬タンパク質のヘモグロビンに含まれているヘム鉄を奪い取って利用するという、非常に危険なシステムを持っているからだ(画像2)。

ヘム鉄とは、平面型の鉄含有金属錯体で生体内に広く存在し、生物種で共通に利用されている赤色の補欠分子族。最近は、鉄分補給を目的としたサプリメントとして薬局等で市販されている。

画像1(左):ヘム鉄。画像2(右):緑膿菌のヘム鉄獲得システム

鉄欠乏状態で菌体外に放出されたHasAは、ヘム鉄と結合すると緑膿菌に戻り、菌体表面に存在する特異的受容体(レセプター)タンパク質「HasR」にヘム鉄を受け渡す。ヘム鉄はHasRを通って細胞内へ輸送され、鉄分として利用される仕組みだ。ただし逆のことをいえば、鉄分は緑膿菌にとっても不可欠な栄養素であるため、鉄の供給を遮断することで、抗生物質を利用しなくとも緑膿菌を殺菌することが可能であり、緑膿菌のウィークポイントともいえるのである。

HasAに、ヘム鉄とは構造が異なる「平面型の合成金属錯体」を添加したところ、HasAが平面型の合成金属錯体をヘム鉄と間違えて捕捉してしまうことが発見された。平面型の合成金属錯体を結合したHasAの結晶化に成功し、理研が所有し高輝度光科学研究センターが運用する大型放射光施設「SPring-8」の理研構造ゲノムビームライン「BL41XU」、「BL26B1」、「BL26B2」を用いて結品構造解析が行われ、その構造が原子レベルで解明されたのである。

その結果、平面型の合成金属錯体を捕捉したHasAの構造は、本来の標的であるヘム鉄を捕捉した構造と外観はほとんど変わらないことが判明。そして、「鉄フタロシアニン」(画像3)と呼ばれる大型で疎水性の高い平面型の合成金属錯体を結合したHasAを「偽のHasA」として、生きている緑膿菌に微少量添加すると、緑膿菌の増殖を阻害できることも発見された。

緑膿菌の外膜に存在するHasAのレセプターであるHasRは、鉄フタロシアニンを結合した「偽のHasA」と、本来の標的であるヘム鉄を結合した「本物のHasA」を区別することができず、「偽のHasA」によりHasRの取り込み口が塞がれてしまうために、緑膿菌への鉄分の供給が遮断され、緑膿菌が増殖できなくなったと考えられるという(画像4)。

画像3(左):鉄フタロシアニン。画像4(右):緑膿菌のヘム鉄獲得システムの阻害

多剤耐性菌を殺菌するために新たな抗生物質が絶えず開発されているが、細菌は抗生物質をうまく排出する手法を獲得するなどしてすぐに耐性化するため、抗生物質の開発と細菌の進化はまさに「イタチごっこ」の状態だ。しかも、すべての抗生物質が効かない多剤耐性菌の出現も遠い未来のことではないと考えられている。従って、抗生物質とは作用機構が異なる殺菌方法の開発は現代医学にとって重要な解決すべき課題というわけだ。

今回、研究チームが発見した鉄フタロシアニン結合型HasAによる緑膿菌の増殖阻害は、抗生物質を一切用いずに緑膿菌の増殖を防ぐことができることから、新規多剤耐性緑膿菌の殺菌方法の開発へと発展できると期待しているとした。

関連キーワード


人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事