岡山大学は2月3日、KKR高松病院との共同研究により、「和温療法」による温熱効果が「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」患者の肺機能と運動耐容能に改善をもたらす可能性があることを、「非ランダム化対照臨床試験」で明らかにしたと発表した。
成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科 老年医学分野の光延文裕 教授、KKR高松病院の菊池宏呼吸器内科医長らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2013年12月23日付けでニュージーランドの慢性閉塞性肺疾患を取り扱うオンライン科学雑誌「International Journal ofCOPD」に掲載された。
現在、日本は高齢(超高齢)社会にすでに突入しており、COPD患者が増加傾向にあるという。慢性疾患であり、進行する労作時呼吸困難を中心とした呼吸器症状が出現しするのが特徴だ。通常は、病院に受診しCOPDと診断されると吸入気管支拡張薬などが処方される。しかも薬物療法だけではなく、リハビリテーションも欠かせない治療だ。ただし、一般的にはリハビリテーションを十分に行える医療施設は多くない。特に運動療法は、息切れ感が強い重症COPD患者にとってはしばしば困難となってしまう。
和温療法(画像1)は温熱療法の1つで、1995年鹿児島大学の鄭忠和博士らが、うっ血性心不全患者に対して初めて有効性を報告した治療法だ。現在、先進医療として慢性心不全患者に適応となり、循環器専門医のいる医療施設で使用されている。具体的には、60度の乾式温熱サウナ室で座位もしくは臥位になり15分間全身を温めた後、30分臥位になり毛布にて全身を保温する。脱水防止のためサウナ入浴前後に適度な水分摂取を行う。
和温療法のを行うと、一般的に心臓から送りだされる血液量が倍以上に増加する。血流増加作用で血管内皮細胞が刺激され、血管拡張作用のある一酸化窒素が合成されるとも報告されているという。今回の研究結果から、和温療法が呼吸器系にも作用している可能性が示唆された形だ。具体的には気道拡張作用、気道系への抗炎症作用が今回の研究結果を基に推測されたのである。
研究チームは今回、2010年4月から2011年5月までにCOPD患者20名を研究参加の同意がとれた順に交互に2群に割りつけ、比較対照試験を実施した。その結果、肺機能検査に関しては、肺活量、最高呼気流速の変化量は、対照群を凌ぐ傾向が認められたのである。また末梢の細い気道の狭窄状態の変化を鋭敏に示すといわれる「50%呼出努力性肺活量」の呼気流速(FEF50)の変化量は、有意に和温療法群が勝っていた(画像2)。
COPD患者においては、吸った息を十分吐ききることができないために、吸うことも困難になるという悪循環が、運動時の呼吸困難を引き起こすと考えられている。つまり和温療法が行われた群の方が、息を吐きやすくなったと考えられるという。
一方、「6分間歩行試験」では歩行距離、歩行時の息切れ指標の「最大ボルグスケール値」、最小酸素飽和度、最大心拍数の変化量に2群間に統計学的に有意な差は得られなかったとする。しかし、和温療法群においては、最大ボルグスケール値と共に歩行距離の改善傾向が見られるなど、運動耐容能の改善効果(息切れを感じることが少なくなるため、より長い距離を歩くことができるようになること)も期待できる結果だった(画像3)。
画像2(左):50%呼出努力性肺活量の呼気流速(FEF50)の変化量。P=0.019(統計学的に有意)、Mann-Whitney検定。数値は、中央値(25%~75%tile)で表示掲載論文より(改変)。画像3(右):4週間前後の6分間歩行試験の変化 |
和温療法(画像1)は重症度に関わらず持続的かつ安全に行える有効な非薬物療法として、将来的に選択肢となり得ると期待されている。また肺だけでなく病気の進行に伴う心臓への負担を軽くすることや、温熱効果がもたらす心地よさがメンタル面によい影響を与えることも期待されるという。従って、今後さらに大規模な臨床試験による検証が必要だが、今回の研究ではCOPD患者の非薬物治療として和温療法の有効性が期待できる結果が得られたとしている。