東京大学などのグループは1月27日、印刷で製造可能な高性能有機薄膜トランジスタ回路を開発し、13.56MHzの商用周波数にて個体識別信号の伝送に成功したと発表した。

同成果は、東京大学の竹谷研究室、大阪府立産業技術総合研究所の宇野主任研究員のグループ、トッパン・フォームズ、JNC、デンソー、富士フイルム、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース、TANAKAホールディングスで構成されるグループによるもの。詳細は、1月29日~31日に東京ビッグサイトにて開催される「nano tech 2014」において発表され、同成果を用いたRFID信号の伝送実験の実演を予定している。

(左)軽量かつフレキシブルな電子タグ、(右)開発した13.56MHz応答する有機TFT整流回路

有機半導体は、塗布法や印刷法といった簡便かつ比較的低温での作製が容易であることに加え、薄型、低コスト、さらにプラスティックRFIDタグやフレキシブルディスプレイなどのユニークな用途が期待できるといった特徴から、応用開発研究が盛んに行われている。しかし、簡便かつ低コストに成膜し、実際に商用周波数でRFIDタグと通信する高速応答性能を実現することは困難だった。そこで、研究グループでは、コア技術開発を行う研究機関とそれぞれが異業種に属する企業グループによる産学連携チームを構築し、有機半導体による革新的プラスティックRFIDタグの研究開発を組織的に推進してきたという。

その結果、低コストの印刷型デバイスで、非接触RFID通信を実現した。具体的には、JNCと東京大学、リガクのグループが、典型的な塗布型有機トランジスタの性能とされる0.1-1cm2/Vsを1桁上回る10cm2/Vsのキャリア移動度を有する有機半導体「アルキルDNBDT」を開発した。この移動度は非常に高い値であり、高周波応答する有機TFTに必須となる。また、同材料は150℃以上の温度でも安定であるため、デバイス化プロセスや実用材料として、高い優位性がある。

さらに、東京大学のグループが新たなプロセスとして塗布結晶化法を開発した。同プロセスは、有機半導体を溶液で塗布すると同時に結晶化させて膜にすることができる簡便な手法である。これにより、連続的に溶液供給することで、10cm角程度の有機単結晶ウェハを製作することが可能になった。有機半導体分子が規則正しく配列するため、高移動度の有機半導体を形成でき、集積化に適した多数の同じ特性のトランジスタを製作できるのが特徴となっている。

加えて、大阪府立産業技術総合研究所と東京大学は、有機半導体にダメージを与えないリソグラフィを用いたパターニング法により、高性能の有機TFTを作製する手法を開発した。同方法により、大阪府立産業技術総合研究所は、2個のトランジスタを組み合わせたRFID通信用整流素子を開発した。

塗布結晶化法と有機単結晶ウェハ

塗布結晶化法による有機整流回路によるDC出力

そして、トッパン・フォームズが開発した低コストのアンテナデバイスと作製した整流素子を直結し、13.56MHzのRFID信号の伝送に成功した。また、異なる周波数の発振回路を用いることにより、固体識別機能を実証した。

印刷が可能な有機整流回路によって、RFID通信の基本特性が得られたことは、低コストRFIDタグの開発に直結する。今回の開発は、以前の塗布型有機半導体よりも、10倍以上高い性能の有機TFTが、1/10以下の低コスト化が可能な印刷法で形成でき、集積化プロセスを経て実デバイスとして利用できることを示した。現在、より多数の固体識別を目的として、RFIDタグに搭載する論理回路部分も、同じ手法で作製する研究開発を進めているという。また、塗布・印刷法などで、一度に大面積フィルム上にデバイスを形成することにより、低コストの生産が可能となるため、物流を効率化する省エネ用電子タグやセンシングデバイスなどの普及につながるとしている。

今後、開発を進めている論理回路部を搭載したRFIDタグの試作を進め、実用化への研究開発を加速させる。また、東京大学内に組織された、有機材料開発からパネル部材、装置開発、デバイス開発を行う企業とのコンソーシアム「ハイエンド有機半導体研究開発・研修センター」では、RFIDタグに限らず、高速動作の有機エレクトロニクスデバイスの開発を広範に目指すとコメントしている。

開発中の有機半導体論理回路