新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)とシスメックスは12月26日、共同で進めているNEDOプロジェクトの成果を基に、肝線維化の進行度を糖鎖マーカーを用いて血液検査により判定する試薬を開発したと発表した。

同試薬を利用することで、肝臓がんの原因となる慢性肝炎・肝硬変の原因となるウイルス性肝炎に起因する疾病(肝線維化)の進行を医療機関の臨床検査室などで従来よりも短時間に測定することが可能となるという。同試薬は2013年12月10日に薬事承認(製造販売承認)を得た。

(a)→(b)へと肝炎からがんに(線維化の程度が)進むと糖鎖構造が変化した糖タンパク質が増えるが、糖鎖解析技術によりこのような糖タンパク質の量を把握する

ウイルス性肝炎は、感染した状態を放置すると肝細胞がんになることがあるなど、重篤な病態を招く疾患。国立がん研究センターの「がん統計情報」によると、日本国内における2011年の肝細胞がんによる死亡者数は3万1800人にのぼり、がんの中では肺がん、胃がん、大腸がんに次いで4番目に死亡者数の多いがん種となっている。

ウイルス性慢性肝炎の治療プロセスにおいては、肝炎ウイルスの持続感染により進行する肝臓の線維化の程度を判定することが重要であり、その検査は肝臓組織を採取して行う生検(生体組織診断)が主流となっている。しかし、生検は患者が入院する必要があり、身体的・経済的な側面で患者の負担が大きいことが課題となり、そのため厚生労働省が発表する「肝炎研究7カ年戦略」では、「線維化の進展を非観血的に評価できる検査法の開発」が提示されている。

NEDOと産総研は、2006年に共同で発足した「糖鎖機能活用技術開発プロジェクト(実施期間は2006~2010年度)」にて肝臓の線維化の進行による微小な糖鎖の構造変化を見い出し、これを指標として用いることにより、これまでのタンパク質ベースのバイオマーカーでは不可能であった精度の高い診断を可能とする糖鎖マーカーの開発を進めてきた。精度の課題は克服できたが測定に時間がかかり、臨床現場で実際に使用する上で課題となっていたという。そこで、2009年には診断システムの実用化を加速するために、シスメックスが共同開発者として加わり、産総研とともに糖鎖マーカーを迅速に測定する技術の研究開発を実施してきました。2011年2月に NEDOプロジェクト終了後も、産総研とシスメックスの2者間で共同研究を継続し、製品化に向けて開発を続けたという。なお、同検査法の有効性の実証のために、国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センターおよび名古屋市立大学大学院 医学研究科 ウイルス学分野などの医療機関の協力もプロジェクトに協力している。

今回開発した試薬は、肝線維化の進行と相関性が高いレクチンを用いて「糖鎖構造Mac-2 binding protein糖鎖修飾異性体(M2BPGi)」の変化を捉え、化学発光酵素免疫反応によりM2BPGi量に応じた発光強度を検出する検査技術であり、肝臓の線維化の進行の度合いを数値でわかる。これまでのタンパク質ベースでの検査では実現できなかった線維化病態におけるM2BPGi表面上の質的な変化(糖鎖構造変化)を捉えることが可能となる点で、より有用性の高い検査と考えられるという。

研究チームは、医療機関の臨床検査室で実施する診断システムとして開発した結果、わずか17分程度での測定を実現することに成功。検査技術の実用化により、入院を必要とせず採血のみで肝臓の線維化の進行度を迅速に測定することができるため、ウイルス性慢性肝炎の治療における患者の負担軽減が期待できるとしている。