「LGI1」と「ADAM22受容体」の結合は脳の安定な興奮状態の維持必要 - NIPS

生理学研究所(NIPS)は11月13日、国内の自己免疫性神経疾患患者が有する自己抗体を体系的に同定して測定した結果、「LGI1自己抗体」を高値で有する患者はほぼすべて「辺縁系脳炎」と診断されていたことが判明し、LGI1自己抗体は神経細胞が特異的に発現する分泌タンパク質で転換関連分子のLGI1とその受容体「ADAM22」との結合を阻害し、シナプス伝達の中核を成す「AMPA受容体」機能を減弱させること、先天的にLGI1遺伝子を欠損させたてんかんモデルマウスにおいても海馬領域においてAMPA受容体量が減弱していることがわかったと発表した。

成果は、NIPS 生理学研究所 生体膜研究部門の深田正紀教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、11月13日付けで米神経科学誌「Journal of Neuroscience」に掲載された。

辺縁系脳炎は亜急性に近時記憶障害や痙攣、見当識障害を来す重篤な脳疾患であり、原因としてウイルス感染や細菌感染、腫瘍随伴、自己免疫などが知られている。自己免疫性脳炎は、主に成人に発症し、国内患者は推定で年間約700人だ。自己免疫性脳炎は、何らかの原因で自身の神経細胞が有するタンパク質に対する自己抗体が生じるために、自身の神経細胞の機能が障害されて発症してしまう。しかし、自己抗体と標的タンパク質の「自己抗原」の全容がいまだに不明であり、診断が困難な疾患だ。

今回の研究では、国内の145名の辺縁系脳炎を含む自己免疫性神経疾患の患者血清の網羅的な解析が行われ、既知の自己抗体に加え、別の6種類のタンパク質に対する新規自己抗体が発見された(画像1)。さらに、各患者血清中のこれら自己抗体価の体系的な測定が行われた結果、であるLGI1に対する自己抗体価と辺縁系脳炎発症との間に極めて高い相関があることが見出されたのである(画像2)。

画像1(左):新規自己抗体の発見。自己抗体は文字通り自己のタンパク質に対して反応し、細胞、組織、臓器に障害を引き起こす。今回の研究により、脳神経細胞のタンパク質に対する既知の自己抗体(黒字のタンパク質に対する抗体)に加えて、さまざまなタンパク質に対する新規の自己抗体(赤字のタンパク質に対する抗体)が発見された。 画像2(中):複数の自己抗体を同時測定できる「Multiplex ELISA検査法」が今回開発された。多数の新規自己抗体の標的抗原を同定したことにより、1人の患者血清中にどのタイプの抗体がどの程度存在しているかを簡便、高感度、かつ特異的に測定することが可能となった。 画像3(右):LGI1抗体価(縦軸)とCASPR2抗体価(横軸)と疾患との関連性を示したグラフ。LGI1抗体価が0.8以上の患者はほとんど例外なく辺縁系脳炎と診断されていたことが判明した(左上の赤色の群)。一方、CASPR2抗体価が0.3以上の患者は「ニューロミオトニア(神経筋緊張病)」のケースが有意に多いことが確かめられている(右中央の青色の群)

LGI1はその変異がある種の「遺伝性側頭葉てんかん」を引き起こすことから研究者の注目を集めている。研究チームのこれまでの研究により、LGI1が「ADAM22受容体」を介してシナプス伝達を制御すること、そしてLGI1欠損マウスではシナプス伝達異常により、生後2~3週間で致死性てんかんを必発することは確認されていた。

一方、ごく最近になって、海外の研究者らが辺縁系脳炎患者血清中に、抗LGI1自己抗体が存在することを報告。しかし、LGI1自己抗体がほかのさまざまな自己抗体と比較してどれほど強く自己免疫性辺縁系脳炎の発症と関連するのか、そしてLGI1自己抗体がどのようにして痙攣発作や記憶障害といった臨床症状を引き起こすかは不明だったのである。

そうした状況において今回の研究では、国内における自己免疫性神経疾患患者の血清の網羅的な解析が行われ、LGI1自己抗体を高値かつ単独で有するほぼすべての患者が辺縁系脳炎と診断されていたことが見出された。さらに、LGI1自己抗体がLGI1とその受容体であるADAM22との結合を阻害することにより、脳内の興奮性シナプス伝達の大部分を担うAMPA受容体機能を低下させることを突き止めた(画像4)。

なお画像4は、LGI1自己抗体はLGI1とADAM22/23との結合を阻害することを表した模式図だ。通常、LGI1はシナプス間隙でADAM22、ADAM23と結合し、AMPA型グルタミン酸受容体を精緻にコントロールしている。一方、LGI1の機能が自己抗体により後天的に阻害されると、シナプスにおけるAMPA型グルタミン酸受容体機能が低下し、無秩序なシナプス伝達が生じてしまう。つまり、LGI1自己抗体によるAMPA受容体機能制御が破綻した結果、痙攣発作を伴うてんかん病態や記憶障害が生じてしまうことが推測されたというわけだ。

画像4。LGI1自己抗体はLGI1とADAM22/23との結合を阻害する

今回の研究により、LGI1とADAM22の結合はヒトの脳が安定な興奮状態を維持するのに必要不可欠なシステムであることが判明した。よって、LGI1とADAM22はこれまでのイオンチャネルを標的とした抗てんかん薬と異なる新たな抗てんかん薬のターゲットとして期待されるという。

今回、研究チームが開発したMultiplex ELISA検査法(画像2)は患者血清中のさまざまな自己抗体の量を同時に測定することができ、辺縁系脳炎の確定診断、および治療効果の判定に実用可能と考えられるとする。同検査法により、個々の患者はしばしば複数の自己抗体を有することが明らかになった。

このことから、自己抗体の組み合わせによって患者固有の臨床症状が形成されることが強く示唆されるという。また、LGI1自己抗体による辺縁系脳炎は免疫療法により自己抗体量を低下させることができれば治療可能なので、迅速な診断により早期の治療と良好な予後が期待できるとしている。

さらに、90%以上の患者で記憶障害を示す辺縁系脳炎の病態がLGI1とADAM22の結合障害に起因するシナプス伝達異常であることが判明したことから、今後は、記憶や学習過程におけるLGI1の役割の解明が期待されるという。LGI1とADAM22との結合を修飾する化合物は、シナプス伝達の機能を変化させるような新たな薬剤の候補となることが期待されるとしている。

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