情報通信研究機構(NICT)は11月1日、2013年5月20日14時45分(米国時間)に発生した、その強さを示す改良藤田スケールで最高レベルのEF5に達した竜巻が発生後、高度300km付近の電離圏に波紋状の大気の波が現れていたこと、ならびに大気の波は7時間以上持続し、北米大陸全体に広がったことを確認したと発表した。

同成果はNICT電磁波計測研究所 宇宙環境インフォマティクス研究室の西岡未知 専攻研究員、同 石井守 室長らによるもの。詳細は、国際的科学誌「Geophysical Research Letters」(電子版)に掲載されたほか、11月2日~5日の期間で開催される「地球電磁気・地球惑星圏学会 総会および講演会(2013年SGEPSS秋学会)」にて発表される予定。

電離圏は、高度300km付近がもっともプラズマ(電離ガス)の濃さ(電子密度)が高く、短波帯の電波を反射したり、人工衛星からの電波を遅延させたりする性質を持つ待機層で、太陽や下層大気の活動などの影響を受けて常に変動しつづけていることから、GPSによる精密測位や衛星を用いた通信などに影響や障害をもたらすことがある。しかし、地球上の気象現象が、どのように電離圏に影響を与えるのかについては、未だにその全体像は明らかにされておらず、その解明が求められていた。

NICTでは、そうした謎の解明に向け、電離圏を通過する電波は、伝播経路上の電子の総数と電波の周波数に依存して、速度に違いが生じるといった性質を利用し、GPS衛星から送信される周波数の異なる2つの信号から、受信機と衛星を結ぶ経路に沿って積分した単位面積当たりの全電子数(TEC)を測定する「電離圏全電子数(TEC)観測システム」を構築。今回は同システムを用いて、TECの2次元マップを獲得し、電離圏内で発生する波動の調査を行ったという。

具体的には、2013年5月に米国オクラホマ州ムーア市に大きな被害をもたらした巨大竜巻の発生後、電離圏に波紋のように広がる波をとらえることに成功したという。また、この波は、北米大陸全体に波紋のように広がり、7時間以上も続いていたことが判明したほか、波紋のような波とは別に、巨大積乱雲の直上に局所的な大気振動が発生していたことも判明。

竜巻をもたらした巨大積乱雲によって 北米大陸にできた 高度300kmにおける波紋状の波

巨大竜巻発生時に高度300kmの電離圏まで大気の波が到達したことを示す概念図。高度2万kmを周回するGPS衛星の信号を、地上のGPS受信機網で受信し、高さ300km付近の電離圏を観測した。巨大竜巻の親である巨大積乱雲が原因となり、大気重力波や音波共鳴が発生し、高さ300kmまで到達して電離圏に波紋や振動を作ったと考えられる結論を得るに至ったという

解析を行ったところ、波紋状の波は、約15分の周期を持つ大気重力波と呼ばれる大気の波によるもので、局所的な振動は、約4分の周期を持つ音波の共鳴によるものであったと考えられるという結論を得るに至ったとのことで、巨大積乱雲が原因となり、高さ300km付近の電離圏にまで影響を及ぼす大気の波や振動が発生したことが示された形となった。

NICTのTEC観測によって検出された波紋状の波。TECは、単位面積を持つ鉛直の仮想的な柱状領域内の電子の総数で、一般的に、1TEC Unit(TECU)=1016/m2で表される。この図では、20分以下の短周期変動のみ示されており、色はTEC変動の振幅を示している(赤は定常レベルから0.1TECU、黒は-0.2TECU。この時刻の背景TECは20-30TECU)。赤星はムーア市の位置を示しており、×印は同心円の補助線で示す波紋状の波の中心を表している

なお、今回の観測結果について研究グループでは、衛星測位や衛星通信等に影響を与える電離圏の変動に、下層大気がどのように影響を及ぼしているかの一端を示すものだとしているほか、2012年5月に、つくば市で発生した竜巻に対応して、波紋状の波が観測されたことも分かってきており、宇宙の観測を利用して、近年、日本で多発する竜巻の発生に関する情報が得られる可能性が示されたとコメントしている。

巨大竜巻の発生をとらえた気象衛星の赤外画像。アメリカNOAAのGOES衛星が赤外画像撮影で雲の観測を行ったもので、高さの高い雲ほど、白く映っている。2013年5月20日19時45分(UT)に、オクラホマ州ムーア市に大きな被害をもたらした竜巻は、赤矢印で示す位置で発生した巨大積乱雲が原因で発生した。この日は巨大積乱雲が次々と発生し、緑矢印で示す位置で発達した巨大積乱雲は、テキサス州に複数の竜巻をもたらした