東北大学は10月30日、フィリピン・サンラザロ病院、香川大学、米国・ハワイ大学、長崎大学との共同研究により、毎年1億人が感染する「デングウイルス(DENV)感染症(デング熱)」の新規病態マーカーを発見したと発表した。
成果は、東北大大学院 医学系研究科 感染病態学分野および東北大 災害科学国際研究所の服部俊夫教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、10月27日付けで「Journal of Clinical Virology」オンライン版に掲載された。
患者が発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、はしかの症状に似た皮膚発疹を含む症状を示すDENV感染症はヤブ蚊によって媒介される感染症で、世界の公衆衛生上の大きな問題の1つとなっている。日本人に関係ないかというとそうでもなく、東南アジアへの旅行などで多数の日本人が感染している。
急性DENV感染症の病態はこれまでの研究により、「可溶性炎症因子」によることが推測されていた。そこで服部教授らの研究チームは実際に、水溶性のβ-ガラクトシド結合レクチンである「ガレクチン9」を世界で最も鋭敏に測定する系を用いて、2010年にフィリピンで発症した65名のデングウイルス感染者において血漿中のガレクチン9と29種類のサイトカイン/ケモカインを測定した。
なお、レクチンとは糖鎖に結合するタンパク質の総称で、ガレクチンはガラクトースに特異性を示すものだ。またサイトカインおよびケモカインは、細胞から放出され、細胞間情報伝達分子となるタンパク質のことである。白血球を増殖させたり引き寄せたりするなど免疫・炎症反応で機能するものが多い。
測定の結果、急性期ではガレクチン9値はデング出血熱患者で2464pg/ml、デング熱患者で1407pg/mlで、非デング熱性疾患(616pg/ml)や健康人(196pg/ml)に比べ著明な上昇を示していることが確かめられた(画像1)。一方、回復期ではガレクチン9のレベルが迅速に減少することも判明している。
このガレクチン9値は、デング熱で病態と相関することが知られている、「サイトカイン」(細胞間でやり取りされる多様な生理活性を持つタンパク質の1種)の1種の「インターロイキン(IL)-1」、「IL-8」、「インターフェロン誘導タンパク質(IP)-10」、および増殖因子「VEGF」の値と相関していることが多変量解析で確認された。
また判別分析法では、同じくサイトカイン/ケモカインの仲間の「エオタキシン」、ガレクチン9、「IFN-α2」、「MCP-1」がデング出血熱の92%、デング熱の79.3%を判別できることが確認されている。これらからデングウイルス感染症のバイオマーカーとしての血漿ガレクチン9の上昇を明らかにし、それがウイルス感染時の危機シグナル分子の性格を有するとの仮説が提唱された形だ(画像2)。
画像2は、危険関連分子としてのガレクチン9。ウイルスなどの感染により細胞内のガレクチン9が遊離され、危険シグノルを与えると共に抗炎症、ケモタキシス活性などの機能が予測されている。
今回の研究は、デング熱患者ではガレクチン9が著明に上昇し、病態の悪化指標と相関することを初めて明らかにした重要な報告としている。