九州大学(九大)は10月16日、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の電子準位を「実験なし」で決定することが可能となる"経験式"を確立したと発表した。
同成果は、同大大学院工学研究院/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の中嶋直敏 教授、GergelyJuhasz博士(工学研究院)および平兮康彦 博士(工学研究院)、京都大学の松田一成 教授、宮内雄平 准教授らによるもの。詳細は2013年10月16日付でNature系オンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。
SWNTは、螺旋度(巻き方)が異なった多くの混合物として合成され、これらカイラリティ(n,m)SWNTで表記される(nおよびmが異なると、電子準位(酸化電位、還元電位、フェルミ順位、仕事関数)が異なる)。研究グループでは、これまでの研究から、「その場フォトルミネッセンス分光電気化学」により、(n,m)SWNT(直径0.7~1.1nm)の電子準位を実験的に決定できることを報告していたが、現時点でもそうして実験的に決定可能なサイズは直径0.7~1.5nmのSWNTに限られていた。また、直径1.5nm以上では、孤立溶解SWNTの調整が困難なこと、ならびに0.7nmのSWNTは合成SWNT中に、極めて少ないことなどの理由から、そうした(n,m)SWNTの電子準位については「実験なし」で決定する必要があったが、その実現には、「経験式」が必要となっていた。
そこで研究グループは今回、「その場フォトルミネッセンス分光電気化学」が適用できる直径が小さい(5,4)SWNTs(d=0.620nm)の電子準位を決定し、すでに決定済みの18種の(n,m)SWNTのデータと合わせ、直径0.5~2.5nmの電子準位を決定することが可能な経験式を導出。これを用いて、決定した220種のmod=1もしくはmod=2(巻き式のファミリーパターン)の(n,m)SWNTの酸化電位(Eox)、還元電位(Ered)およびフェルミ準位(EF)をSWNTの直径に対して示されたデータを明らかにしたほか、導出した経験式を計算による理論的な値と比較し、経験式の優位性を確認したという。
なお、電子準位はSWNTの基礎基盤特性であるため、今回の成果は、カーボンナノチューブ分野の研究の進展を促すものであり、将来の産業分野への利用/応用に対して、目的の材料/システムデザイン、構築をより適切かつ精密に行うことが可能になることが期待されると研究グループではコメントしている。