静岡県立大学、名古屋大学(名大)、不二製油の3者は9月24日、食品タンパク質や医薬品の吸収を担う「ペプチド輸送体(POT)」について、さまざまな物質を輸送する「基質多選択性」の全体像を解明したと発表した。

成果は、静岡県立大 食品栄養科学部の伊藤圭祐助教、同・吉川悠子助教、同・河原崎泰昌 准教授、名大 創薬科学研究科の加藤竜司准教授、不二製油 基盤技術研究所の本山貴康氏らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月24日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

全生物が有するPOTは微生物から高等動植物まですべての生物が有しており、ヒトにおいては食品タンパク質の加水分解物である「ペプチド」(アミノ酸が数珠状に連なった分子)を素早く体内へ取り込む役割で、アミノ酸源の高効率な取り込みを担う。

また、POTは1つの輸送体がバリエーションに富んだ物質群を認識・輸送する性質を持つ基質多選択性を備え、8400種類以上ものバリエーションを持つペプチド群を認識・輸送することが可能だ。この基質多選択性によって、血圧上昇抑制剤、抗生物質、抗ウィルス薬、抗がん剤などの各種医薬品の吸収担体としても機能しているのである(画像1)。ただし、これまで基質多選択性の詳細は不明だった。

画像1。ペプチド輸送体を介して生体に吸収される物質

今回の研究では、モデル真核生物である酵母をツールとして用いることで、従来よりもはるかに迅速・簡便にPOTの機能解析を行うことができる「F-CUp(Fluorescence-based Competitive Uptake assay system)法」を開発。これにより、従来法では困難であった膨大な数の基質についての網羅的解析が可能となり、さまざまなペプチドや医薬品の生体吸収性が調べられた。

その結果、大豆タンパク質に多く含まれる芳香族・分岐鎖アミノ酸(ヒト必須アミノ酸)を含むペプチドがPOTを介して特に高効率に吸収されること(画像2・3)、さらにPOTの基質多選択性は生物種を越えて保存されていることが明らかとなったのである。

さらに、得られた解析データと各物質が有する物理化学的指標を照らし合わせることで、コンピュータ上でペプチドや医薬品の生体吸収性を予測することにも成功した形だ。なおヒト必須アミノ酸とは、ヒトが体内で合成できないため、食品として外界から取り込む必要のあるアミノ酸群のことをいう。大豆タンパク質などに多く含まれる。

画像2(左):「ジペプチドライブラリー」を用いた網羅的解析結果。縦軸がN末端、横軸がC末端アミノ酸残基(1文字表記)。赤いセルの「ジペプチド」(2つのアミノ酸がペプチド結合した分子)ほどPOTを介して吸収されやすいことを示す。画像3(右):POTを介して吸収されやすいジペプチドの特徴。ヒト必須アミノ酸はW(トリプトファン)、F(フェニルアラニン)、H(ヒスチジン)、M(メチオニン)、L(ロイシン)、I(イソロイシン)、V(バリン)、K(リシン)、T(トレオニン)。Yは準必須アミノ酸のチロシン

今回の研究により、POTの基質多選択性は生体にとって高価値なアミノ酸をペプチド形態として高効率に取り込む仕組みであり、生物学的に大変理にかなっていることが明らかにされた。POTの基質多選択性の全体像は、食品の消化吸収に関する重要な基礎的知見でもあり、生体吸収性に優れた経腸栄養剤、スポーツ用途食品、発酵培養基材、また医薬品などの開発に多大な貢献が見込まれるとしている。