宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月24日、NASAのチャンドラX線観測衛星と欧州宇宙機関(ESA)のXMMニュートン衛星を用いて、かみのけ座銀河団の中に、高温ガスの巨大な「腕」(画像1)を多数発見したと発表した。

成果は、JAXA インターナショナル トップヤングフェローのAurora Simionescu(オーロラ・シミオネスク博士、マックス・プランク研究所のJeremy Sanders(ジェレミー・サンダース)博士らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月20日付けで米科学誌「Science」に掲載された。

なお、JAXA インターナショナル トップヤングフェローシップ プログラムは、JAXAが2009年度より設けた研究員制度で、世界からJAXA宇宙科学研究所で進めている宇宙科学の研究分野において卓越した能力と高い意欲を持つ若手研究者を宇宙科学研究所に招聘し、宇宙科学研究所を研究拠点として世界レベルの研究成果を創出することを目的としたプログラムだ。

画像1。かみのけ座銀河団の中に見つかった、X線で輝く巨大な腕

チャンドラ衛星ののべ6日分のデータを詳細に解析して得られたX線画像(赤)と、スローン・デジタル・スカイサーベイの可視光画像(白・青)を重ねることによって得られた新しい画像には、目を見張るような腕の特徴を見て取ることが可能だ。X線は、数1000万度の高温ガスから放射される。可視光画像だと、高温ガスのわずか1/6の質量しか持たない銀河だけしかわからない。腕を強調するため、画像1では最も明るいX線放射しか表示されていないが、高温ガスは視野内にまんべんなく存在しているという。

これらの腕は、小さな銀河団がかみのけ座銀河団と衝突する時に、かみのけ座銀河団の高温ガスの向かい風によって、銀河からガスがはぎ取られてできたものと推測されている。ちょうど、ジェットコースターの乗客の帽子が向かい風で飛ばされてしまうようなイメージだ。

かみのけ座銀河団は、中心に1つではなく2つの巨大楕円銀河を持つという点で、珍しい銀河団である。これら2つの巨大楕円銀河は、おそらく過去にかみのけ座銀河団と衝突した2つの銀河団の、最も大きい銀河の名残だと考えられるという。かみのけ座銀河団では、このほかにも過去の衝突の痕跡が見つけ出されている。

高温ガスの腕の広がりや、その中での音速(時速約400万キロメートル)から、この新発見された腕はおよそ3億年前にできたという推定だ。また、これらの腕はいくぶん滑らかな形をしている点も特徴的である。そうした事実は、かみのけ座銀河団内の高温ガスの状態を解き明かすヒントを与えてくれるという。多くの理論モデルでは、銀河団同士の衝突が起こると、高温ガスに強い乱流が引き起こされることが予想される。しかし、今回発見された滑らかな形の長い腕は、かみのけ座銀河団が何度も衝突を起こしたにも関わらず、高温ガスが思いのほか穏やかな状態にあるという理論も出るとは異なる事実を示している点が注目すべき点だろう。

かみのけ座銀河団内で乱流が弱いのは、銀河団規模の磁場が原因となっていると考えられるとする。銀河団内の乱流の量を見積もることは宇宙物理学の大きな挑戦の1つとされるが、これまでにさまざまな見積もりがなされてきたものの、結果に食い違いが見られるため、ほかの銀河団をさらに観測していく必要があるという。

2つの腕は、ニュートン衛星のデータから、少なくとも150万光年の長さを持つさらに大きな構造とつながっており、かみのけ座銀河団中心部から200万光年先にある銀河群まで伸びているように見える。また、ある銀河の後ろには、とても薄い「尾」が見られるという。これはおそらく、銀河団や銀河群に加え、1つの銀河からも高温ガスがはぎ取られている証拠だとしている。