質量が太陽の約10億倍という超巨大ブラックホールの構造を、ハッブル宇宙望遠鏡の約400倍の細かい解像度で観測することに、国立天文台やイタリア国立宇宙物理学研究機構などの研究チームが成功した。 地球サイズの巨大な電波観測手法を用いたもので、ブラックホールの近くから南北2方向にガスが高速で噴出している様子も鮮明に捉えた。ブラックホールの仕組みの解明や、中心部にある“黒い穴”の直接撮影の実現にも近づく成果だという。

国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘研究員らの研究チームは、全米10台の電波望遠鏡をつないだ地球サイズの口径をもつ観測網と、大気による電波の揺らぎを除去する技術を組み合わせて、地球から約2900万光年離れたところにある「ソンブレロ銀河」を観測した。

ソンブレロ銀河は形状がメキシコのソンブレロ帽に似た渦巻銀河で、中心部には太陽質量の約10億倍という宇宙最大級の超巨大ブラックホールがあるとされるが、ハッブル宇宙望遠鏡の解像度(約0.05秒角)をもってしても、あるいは同程度の解像度をもつ電波望遠鏡でも、ブラックホールからのガス噴出(ジェット)などの構造はこれまで確認できなかった。

今回の観測では、ブラックホール周辺を約140マイクロ秒角(1度角の約2600万分の1)の解像度で撮影(検出)することに成功した。これはハッブル宇宙望遠鏡の約400倍も大きな解像度で、ブラックホールの強い重力によって光さえ脱出できないとされる「シュバルツシルト半径」のわずか数十倍程度まで、観測領域を狭めることができたという。

さらに、ジェットの全長が1光年ほどと小規模ながらも、ブラックホールの近傍から南北2方向にガスが噴出する様子も捉えられた。ガスの明るさの比率などを詳しく調べたところ、北側のガスは光速の約20%以下の速度で地球(観測者)側に近づくように噴出し、南側のガスは逆に遠ざかる方向に噴出していることが分かった。

一般にブラックホールはガスを“引き寄せる”天体だが、強力にガスを“噴出”しているブラックホールも一部に存在するとされていた。これまで確認されていなかったソンブレロ銀河でガス噴出が確認されたことは、ガス噴出が多くのブラックホールがもつ“共通の能力”であることを意味するという。

今回は周波数が「センチ波」での電波観測だったが、さらに高い周波数の「サブミリ波」を用いた観測実験も進められている。サブミリ波を用いれば、今回の観測のさらに約10倍も高い解像度が得られることから、研究チームは「ブラックホールの意味通りの“黒い穴”が直接撮影されることも期待される」と述べている。

(上段)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したソンブレロ銀河
(提供:NASA and the Hubble Heritage Team)
(下段)研究チームが今回撮影(検出)した中心核の超高解像度画像
(提供:国立天文台)

明らかになったソンブレロ銀河の巨大ブラックホール周辺の構造(右は想像図)
(提供:国立天文台/AND You Inc.)

関連記事

ニュース【ブラックホールへの落下0.01秒前】

ニュース【最小のブラックホール確認】