岡山大学は8月22日、生殖機能を司るキスペプチンという物質が、脳の視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を調節する仕組みを解明したと発表した。

同成果は同大大学院医歯薬学総合研究科の大塚文男 教授(総合内科学分野)、同 寺坂友博大学院生(腎・免疫・内分泌代謝内科学分野)、米国カリフォルニア大学サンディエゴUCSDのLawson M.A.博士らによるもの。詳細は、内分泌学の国際誌「Molecular and Cellular Endocrinology」に掲載された。

視床下部の神経細胞から分泌されるGnRHは、10個のアミノ酸からなるペプチドで、律動的に分泌され、脳下垂体に働きかけることで、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌を刺激し、FSHの作用によって卵巣から女性ホルモン「エストロゲン」を産生させるため、その分泌リズムが、思春期の発来や性成熟を起こし、正常な性周期を形成するために重要な物質とされている。

また、卵巣から分泌されたエストロゲンは、2001年に発見された生理活性ペプチド「キスペプチン」のニューロン細胞により、視床下部にGnRHを分泌調節する指令をフィードバックする。キスペプチンは当初、腫瘍の転移を抑制する物質として考えられていたが、2003年にキスペプチン受容体「GPR54」の遺伝子に異常があると性成熟が起こらないことが判明し、その生殖機能における重要性が示されていた。

今回の研究では、卵巣のエストロゲンから視床下部のGnRH分泌へのフィードバックの仕組みにおいて、キスペプチンがこの調節を強化すること、このキスペプチンの作用に対してタンパク質「BMP-4」が抑制的に作用し、さらにキスペプチンもBMP-4の働きを抑制するという、双方向性の制御の仕組みがあることが示された。

なお、研究グループでは、視床下部のGnRHと卵巣のエストロゲン分泌の間を仲介するフィードバックの仕組みについては、未だによく分かっていないほか、思春期の発来や性周期の異常をきたす間脳や視床下部の病気のうち、病態の多くが不明であり、今回の成果を受けて、キスペプチンとBMP-4に着目した研究が進めば、将来的に生殖機能異常に対する新しい診断や治療の標的分子として活用できる可能性が期待されるとコメントしている。

エストロゲンからキスペプチンを介した視床下部GnRH分泌の調節とBMP-4による抑制の仕組みのイメージ図