東京大学生産技術研究所(東大生研)、海上技術安全研究所(海技研)、九州工業大学(九工大)の3者は8月7日、2012年8月から2013年7月までの間に茨城県・福島県・宮城県の沖合において総距離約400kmにおよぶ海底土における放射性物質の濃度の曳航調査を実施した結果、福島第一原子力発電所の20km圏内および阿武隈川の河口付近で海底土の「セシウム137」の濃度が局所的に高い状態にある「アノマリー」を発見し、広域に渡るアノマリーの分布調査に成功したと共同で発表した。

成果は、東大生産研のソーントン・ブレア特任准教授、海技研 水中工学センター センター長兼九工大 社会ロボット具現化センター センター長・特任教授の浦環 博士、海技研の小田野直光 海洋リスク評価系長、同・大西世紀主任研究員らの共同研究チームによるもの。また調査は、福島県漁業協同組合連合会、福島県水産試験場、宮城県漁業協同組合、宮城県水産技術総合センター、海洋生物環境研究所、水産総合研究センター、芙蓉海洋開発の協力を得て行われた。

文部科学省などでは定期的に海底土をサンプリングし、放射性物質濃度の分析を行っている。しかし、採用している手法の性質上、数10km離れた複数の地点を計測するに留まり、計測点間の濃度の変化を細かく計測することはできていない。河川からの放射性物質の流入、海流や波浪による移動などを把握するためには、水平分解能の高い線的、面的な計測が必要だ。そこで東京生究では、計測点間の濃度の変化を細かくとらえるための装置を開発し、今回の調査の実施に至った。

従来の手法では、セシウム137の海底濃度を細かくとらえることができていなかったが、福島第一原発の20km圏内において140km以上の距離を連続的に計測した結果から、海底の凹み地形において、セシウム137の濃度が周辺海域の数倍高い状態にあるアノマリーが複数発見され、これらの分布のマッピングに成功した。その範囲は狭い場所では数10m、広い場所では数100m程であり、セシウム137の濃度が海底地形に影響されていることが明らかになった。なおアノマリーとは、セシウム137の濃度が局所的に周辺海域と比べて異なる場所のことをいう。

同様に、仙台湾において220km以上におよぶ海底土のセシウム137の濃度を調査した結果、阿武隈川の河口付近で、2km程度の範囲に渡ってセシウム137の濃度が周辺海域より数倍高くなっているアノマリーが発見され、マッピングすることに成功した。

今後の対策を検討する上で、アノマリーの分布、濃度変化、移動の理解は不可欠だ。今後は、福島原子力発電所20km圏内および阿武隈川の河口付近を、継続的に調査する予定とした。また今後の調査には、連続計測の結果を基にサンプリングポイントの場所を決める戦略的な手法を必要だという。さらに、海底地形計測、海底底質調査、海流の調査を実施し、より詳細にアノマリーをマッピングすることによって、汚染メカニズムを詳細に調べ、沿岸域におけるセシウム137の移動予測に役立つデータの取得が期待されるとしている。