日本原子力研究開発機構(JAEA)は8月2日、東洋炭素、イビデン、東海カーボン、新日本テクノカーボンらとともに、国際科学技術センター(ISTC)の枠組みのもと、カザフスタン共和国の核物理研究所(INP)との間で、将来の高温ガス炉の炉心構成材に使用される等方性黒鉛材料の照射試験プロジェクトに関する研究契約を8月1日付で締結し、2016年1月末までの予定で、各社が独自製法で製造した高機能黒鉛材料について、INJP所有の水冷却の研究炉(WWR-K炉)を用いて照射試験を行う計画であることを発表した。

高温ガス炉は、冷却材にヘリウムガス、炉心構成材に等方性黒鉛を用いることで高い固有安全性を実現可能な原子炉だが、高温における燃料被覆材の化学反応抑制による、さらなる安全性の向上が求められている。そこでJAEAなどでは、そうした将来の高温ガス炉用の高機能材料開発として、等方性黒鉛に優れた耐酸化性を持たせる基盤研究を進めてきた。

黒鉛に耐酸化性を持たせる手法としては具体的なものは、表面をSiCなどで被覆して高機能を持たせる手法が有効であるとされているが、高温ガス炉の使用条件においてSiC膜のはく離を防止することが課題とされている。一方、カザフスタン共和国では、クルチャトフ市に、発電および地域暖房を目的とし、将来的には水素製造をも視野に入れた、原子炉熱出力50MW(5万kW)規模の小型高温ガス炉を建設する「カザフスタン高温ガス炉(KHTR)計画が進められており、原子力部門発展プログラムにて、高温ガス炉の建設とそれを用いた発電と地域暖房などが記載されている。

今回の共同研究は、黒鉛に優れた耐酸化性を持たせるために黒鉛表面をSiCで被覆した場合、黒鉛とSiCの熱膨張率が異なるため、中間にSiC/Cの傾斜層を導入することで、高温での熱膨張の差によって生じる応力を緩和し、SiC膜のはく離を防止して健全性を確保することを目的に4社がそれぞれ独自の製法で耐酸化SiC膜を開発し、1000℃以上の高温における耐酸化特性試験を進めるほか、耐酸化黒鉛の中性子照射による影響については、ほとんど明らかになっていないことから、WWR-K炉を用いて、そうした耐酸化黒鉛に対する中性子照射試験を実施し、SiCの酸化反応の進行を確認し、耐酸化黒鉛の健全性を評価するほか、寸法や微細組織、熱拡散率などへの照射効果の評価が行われる予定だという。

なお、JAEAでは、同プロジェクトの成果が、日本の高温ガス炉技術をカザフスタン共和国をはじめとする世界へ展開する上で有効に活用することが期待されるとコメントしている。

耐酸化黒鉛の表面積と酸化膜の形成イメージ。等方性黒鉛の表面をSiCで被覆した耐酸化黒鉛では、高温での酸化反応により表面にSiO2膜が形成されることで、さらなる酸化の進行を抑制できる。SiCと等方性黒鉛との中間にSiC/Cの傾斜層を導入することで、高温での熱膨張の差によって生じる応力を緩和することが可能となる