産総研、銅の100倍まで電流が流せる単層CNTと銅の複合材料を開発

産業技術総合研究所(産総研)は7月23日、技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)と共同で、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)と銅を用いて、銅と同程度の電気伝導度を持ちながら、銅の100倍まで電流を流せる複合材料を開発したと発表した。

同成果は、産総研 ナノチューブ応用研究センター 畠賢治首席研究員、CNT用途開発チーム 山田健郎研究チーム長、TASC チャンドラモウリ スブラマニアン研究員らによるもの。英国の学術誌「Nature Communications」に掲載された。

新たに開発されたCNT銅複合材料

トランジスタやメモリなどの小型化の研究が進む一方で、これらのデバイスに電力を供給する配線についてはアルミ配線から銅配線に置き換えられて以降あまり進展がない。しかし、プロセスの微細化にともない、電流密度は高くなり、適用限界が近づいており、半導体の次世代技術の方向性を示す国際半導体技術ロードマップ(ITRS)においては、2015年にはデバイス内の電流密度は、現在用いられている銅と金の破断限界を超えると指摘している。また、次世代材料として期待される炭素系材料は高い電流容量を持ち、電流密度の増大には対応できるものの、配線材料としては電気伝導度が不十分であり、新たな配線材料の開発が求められているのが現状である。

産総研はTASCに参画し、NEDOの「低炭素化社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」の下、スーパーグロース法で合成した単層CNTが、他の単層CNTに比べて大表面積という特徴を生かし、用途開発を行ってきた。特に、単層CNTと既存材料との融合化や、その実用化を推進する研究では、導電性ゴムなどの複合材料を開発してきた。

今回の研究では、高い電流容量を有する炭素系材料の一種であるCNTと、高い電気伝導度を持ち、配線材料として広く利用されている銅を用いて、双方の長所を生かした複合材料を開発した。

具体的には、まず電気めっきにより銅を析出させて、単層CNTと銅の複合材料を作製。複合化するには、銅をCNT構造体の内部にまで満遍なく形成することが重要になってくるが、CNTは疎水性であり、銅イオンの水溶液だけで電気めっきを施しても、CNT構造体の内部に銅は十分充填されないほか、有機系溶液を用いた電気めっきでも、通常の50~100mA/cm2という電流密度でのめっきでは、先にCNT構造体の表面に銅粒子が形成されてしまい、水溶液による電気めっきと同じくCNT構造体の内部には銅を充填することができないことから、今回、銅イオンの有機系溶液と水溶液を用いて、逐次、電気めっきすることで複合材料を作製したという。

スーパーグロース法で作製した単層CNTは、基板に対して垂直配向しているため、単層CNTを基板に倒伏し、水平配向の板状のCNT構造体を作製し、それを銅イオンの有機系溶液に浸してCNT構造体中に溶液を浸透させ、銅イオンの有機系溶液中で1~5mA/cm2という低い電流密度で、高密度化したCNT構造体をゆっくりと電気めっきし、CNT構造体の内部に成長の核となる銅関連粒子を満遍なく形成させた。

形成した銅関連粒子は銅および酸化銅なので、これを洗浄し、水素雰囲気下で加熱することで、酸化銅を水素で還元して銅にし、銅関連粒子を銅粒子とし、その後、銅イオンの水溶液中で電気めっきを施すことで、CNT構造体の内部にまで銅を充填させることができることを確認。めっき後に洗浄し、再度水素雰囲気下で加熱することで、銅とCNTが均一に複合化されたCNT銅複合材料を作製したという。

CNT銅複合材料作製法の模式図。垂直配向単層CNTを水平配向させ、有機系溶液でCNT構造体の内部にも銅粒子を形成し、その後、水溶液を用い、銅とCNTが均一に複合化した材料を作製したという

このCNT銅複合材料との比較のため、銅や金を用いた同じ形状・大きさの試料を作製し、電流密度による抵抗率の変化を調べたところ、銅や金は電流密度10×106A/cm2付近で破断したが、CNT銅複合材料は690×106A/cm2まで破断しなかった。電流容量は、抵抗率が一定の領域での最大の電流密度だった。また、CNT銅複合材料の電流容量は600×106A/cm2だったが、銅や金の電流容量はそれぞれ6.1×106A/cm2、6.3x106A/cm2だった。この結果、今回開発したCNT銅複合材料は従来の配線材料である銅や金のおよそ100倍の電流容量を有することが分かった。

電流密度を変化させた時のCNT銅複合材料・銅・金の抵抗率変化。電流密度を増加すると、最終的には配線形状が変形して抵抗率が上昇し、破断する。CNT銅複合材料は銅や金の100倍の電流密度まで耐えることができる

また、銅とCNT銅複合材料について、温度変化による電気伝導度の変化を測定したところ、CNT銅複合材料の電気伝導度は、常温では4.7×105S/cmであったという。これは銅の5.8×105S/cmに匹敵する値であり、温度上昇によるCNT銅複合材料の電気伝導度の低下は銅に比べて小さく、80℃では銅の電気伝導度を上回り、227℃では銅の2倍になることも確認された。

CNT銅複合材料と銅の温度による電気伝導度変化の比較。CNT銅複合材料は銅に比べて、高温でも電気伝導度が保たれる

従来、電気伝導度と電流容量は、金属のような自由電子が多く原子間の結合が弱い物質では電気伝導度が高く、炭素系材料のような原子間の結合が強く拡散が起こりにくい材料では電流容量が大きいといった、相互排他的な関係の特性と考えられていた。しかし、今回開発されたCNT銅複合材料では、銅をCNT構造体の内部に十分充填することで高い電気伝導度を保ちつつ、銅粒子界面をCNTで覆うことで、金属の表面や粒子界面で容易に起こる拡散を抑制し、大きな電流容量も同時に達成できることが示された。CNT銅複合材料は体積にして45%のCNTを含んでおり、複合材料の密度は5.2g/cm3となっており、これは銅の8.9g/cm3、金の19g/cm3に比べて小さく、デバイスなどに応用される際の軽量化も期待できると研究グループでは説明する。

CNT銅複合材料と従来材料の電気伝導度・電流容量の比較。CNT銅複合材料は電気伝導度・電流容量のどちらにも優れ、これまでの材料にはない特徴を有する

なお研究グループでは今後、CNT銅複合材料の大面積製造プロセスの開発と配線形状の作製を目指すとともに、10月31日~11月1日に産総研つくばセンターで開催される産総研オープンラボでの実物展示などを通じて、実用化に興味をもった企業と連携することで、新たな用途開拓を進めていくとコメントしている。



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