長崎大学は6月24日、海中や土壌、体内といったさまざまな環境に広く分布しているバクテロイデーテス・フィラムの細菌が、そうした環境表面を動く際の能力「滑走運動」がどういったメカニズムであるのかを解明することに成功したと発表した。

同成果は、同大 医歯薬学総合研究科口腔病原微生物学分野の中根大介 日本学術振興会特別研究員(現:学習院大学理学部助教)と中山浩次 教授らによるもの。詳細は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

滑走運動は、べん毛、線毛など、他の細菌が持つ既知の運動様式とは基本的に異なっており、その運動メカニズムについてはこれまで良くわかっていなかった。

これまでの研究から、同運動にはバクテロイデーテス・フィラムに特有の遺伝子群が関わっていることが判明しており、約20遺伝子が同定され、複数のタンパク質が膜周辺に局在し、機能していることが知られているほか、これらの遺伝子群の類似遺伝子は歯周病原菌Porphyromonas gingivalisでは病原プロテアーゼの分泌にも関わっていることも知られている。

また、こうした細菌の運動に関連する外膜タンパク質(SprB)に、ビーズをつけると、膜に沿って、約2μm/sの速さでビーズが動くことが知られているが、そのビーズの動きが、SprBタンパク質の直接的な動きによるものかどうかはわかっていなかったことから、今回、研究グループでは、この外膜タンパク質を、直接蛍光標識することで、そのダイナミクスの調査を行った。

具体的に、化学固定した菌に対して、免疫蛍光法をおこなったところ、SprBは、菌体表面に20~30個のシグナルとして検出されたことから、そのシグナルが、膜上を動いているのか、確かめるために、化学固定せずに、免疫蛍光法を実施。

その結果、ガラス上で運動をしている菌に対して、抗体を添加すると、濃度依存的に、ガラスへの結合能、運動能が阻害されることを確認したという。

これは、SprBタンパク質が、滑走運動に直接関与する、外膜タンパク質であることを示すものだと研究グループは説明する。

また、抗体濃度を100倍希釈して使用したとき、結合・運動能が約60%残っており、SprBの局在にも影響が見られず、シグナルは膜に添って、菌体のまわりを動きまわっていることも確認されたことから、その動きと滑走運動の関わりを調べるために、菌体に運動のエネルギー源の一種であるプロトン駆動力(PMF)の阻害剤(CCCP)を加えたところ、3秒以内にタンパク質の動きが停止し、菌体も動かなくなることが確認されたほか、CCCPを除いてみると、6秒以内にタンパク質の動きが再開し、菌体も動き始めることが確認されたという。

こうした効果は、他の阻害剤では観察することが出来なかったことから、SprBの動きは、PMFに依存的で、滑走運動に必要不可欠であることが示されたとする。

さらに、SprBのシグナルの運動の仕方や速さ、軌跡などを観察したところ、並進運動の際は、菌体の側面から、もう一方の側面に向かって、左方向にのみ進んでおり、右方向には進んでおらず、左巻きの閉じたループに沿って、膜上を移動していることが判明した。

すでにクライオ電子顕微鏡による観察から、菌体の表面には、フィラメント状の構造があることが知られているが、研究グループでは、この構造がSprBからなるかどうかを調べるために、電子顕微鏡で構造観察を行った結果、SprBは外膜から突き出た、150nmの長さのフィラメント状タンパク質であることが確認されたとのことで、これらの結果から、150nmの長さのフィラメント状タンパク質であるSprBは、プロトン駆動力をエネルギー源として、菌体表面を極から極へ、左巻きのらせんに沿ってループ状に動き、SprBが床と接着することで、菌体の長軸方向への並進運動が生じるという結論を得たと研究グループでは説明している。