生後10カ月の言葉をしゃべれない乳児でも、いじめられている弱者に同情心をもつことが、京都大学教育学研究科の鹿子木(かなこぎ)康弘特定助教や文学研究科の板倉昭二教授、大学院生の奥村優子さんらの研究で分かった。乳児は1歳半以上になると言葉やしぐさなどによって、苦境にある他人に同情的な態度を示すが、それ以前の幼い赤ちゃんについては不明だった。今回見られた様子は「後に発達する同情行動の基盤となっているのかもしれない」という。

研究グループは、生後10カ月(9歳半-10歳半)の乳児40人を2グループに分け、一方には、青い球体(攻撃者)が黄色い立方体(犠牲者)を追いかけて小突いたり、押しつぶしたりする攻撃的なアニメをテレビ画面で見せ、他グループの20人にはこれら2つの図形が互いに接触せずに勝手に動くアニメを見せた。その後、40人の目の前に2つの図形の物体を置いて、どちらをよく注視し、触れようとするかを観察した。その結果、攻撃的なアニメを見た20人中の16人が、犠牲者となる黄色い立方体に手を伸ばした。他のグループでは、選ぶ物体に偏りはなかった。

こうした乳児の選択が「攻撃者への怖がり」のためではないことを示すため、攻撃者と犠牲者のいずれにも中立的な動きをする赤い円柱を加えたアニメを見せて、乳児の選び方を比べた。目の前に「攻撃物体と中立物体」を置いた場合は、乳児のより多くが「中立物体」を選び、「犠牲物体と中立物体」の場合は「犠牲物体」をより多く選んだ。このことから乳児は、犠牲者である図形に対して選択的に反応していることが分かったという。

今回の研究をきっかけに、乳児が言葉を話し出す前の「前言語期」における「共感」や「同情」についての研究も広がりそうだ。研究グループは「人間の生来的な本質が解明され、人間の本質は“善か悪か”といった議論にも多くの示唆が与えられることが予想される」と述べている。

研究論文“Rudimentary Sympathy in Preverbal Infants: Preference for Others in Distress”は米国のオンライン科学誌『PLOS ONE』に掲載された。

実験で用いたアニメーション
(a)攻撃相互作用:青の球体が攻撃者、黄色い立方体が犠牲者
(b)接触のない相互作用
(c)中立物体(赤い円柱)を加えた攻撃相互作用
(提供:京都大学)