JEOL RESONANCEは4月16日、液体ヘリウムの補充を必要としない(ゼロボイルオフ)超伝導マグネットを用いたNMRシステムの実用化に成功したと発表した。

同成果は、米国カリフォルニア州パシフィックグローブで4月15日から開催される米国最大のNMR学会「第54回 Experimental Nuclear Magnetic Resonance Conference(ENC)」において発表される。

NMR装置は、物質の分子構造を原子核レベルで解析するための分析装置で、応用分野は製薬・バイオ・食品・化学だけでなく、有機ELや電池、フィルムなどの新しい分野にも活用されており、先端の科学技術分野で欠かせない分析装置となっている。

同装置は超伝導マグネットを使用しており、同社では中心磁場の強さにより、400MHz(9.4T)~930MHz(21.8T)までをラインアップしている。超伝導マグネットはその磁場を維持するために内部コイルを超伝導状態に保つ必要があり、冷媒として液体ヘリウムを用いる。現行のJEOL RESONANCE製400MHz NMRマグネットは、液体ヘリウムを年間約120リットル消費するが、近年は液体ヘリウムの入手が困難なため、補充期間が長く、補充容量が少ない超伝導マグネットが望まれていた。

NMR測定は微小な電波を測定する必要があり、冷凍機の振動により、NMR信号にノイズが発生することが懸念され、これをいかに小さくするかが開発のポイントとなる。また、冷凍機は外部に設けられたヘリウムガス圧縮機で動作しているが、停電などにより圧縮機の動作が停止した場合、復電するまでに液体ヘリウムが蒸発する課題があった。特に、週末や年末年始の長期休暇の間に停電した時には、対処するまでの時間が長くなると予想されるため、冷凍機停止期間でも、液体ヘリウムの蒸発を抑え、超伝導マグネットの磁場を保持する工夫が求められていた。さらに、冷凍機は約2年に1回のメンテナンスを必要とするが、この作業を超伝導マグネットの磁場を変更しないでできるようにしてもらいたいというニーズもあり、同社では、こうした課題に対応するべく開発を重ねた結果、世界で初めてゼロボイルオフ超伝導マグネットを用いたNMRシステムの開発に成功し、商品化することを決定したという。

NMR装置は、タンパク質、高分子材料、薬品、新素材などの開発に不可欠な基本分析ツールであり、液体ヘリウムの入手が困難な状況や場所でも、同製品を用いることで、通常の高分解能NMRデータを取得することができ、NMRの用途拡大につながると期待される。今後同社では、5月より受注を開始する予定とするほか、磁場強度の高い500MHz(11.7T)機や600MHz(14.1T)機にも開発成果を活用し、ラインアップを充実させていく方針だという。

液体ヘリウムの補充を必要としない(ゼロボイルオフ)超伝導マグネットを用いたNMRシステム