パナソニック デバイス社は3月19日、耐圧600Vで連続安定動作可能なGaNパワートランジスタの量産化すると発表した。

今回量産化されるGaNパワートランジスタの特徴は大きく3つ。1つ目は、大面積Si上へのGaN結晶成長を可能とする有機金属気相成長(MOCVD)技術、およびp型ゲート構造を有するGaNパワートランジスタ技術。GaNパワートランジスタの実用化のためには、GaNの結晶成長に用いられる基板の低コスト化が必要不可欠となる。今回、6インチの大面積Si基板を用いることで、この課題を解決した。

また、機器の安全性確保のためパワートランジスタには、ゲートに電圧が印加されない状態で電流が流れない、ノーマリオフ動作が求められるが、GaNパワートランジスタでは分極と呼ばれる材料物性があるためにノーマリオフ動作の実現が困難だった。そこで、GIT(Gate Injection Transistor)と呼ばれる独自のデバイス構造を提案し、これを解決。具体的には、6インチSi基板上においてGaN結晶に存在するストレスを低減する層構造を導入することで、クラックの発生しない良好な結晶性を有するGaNトランジスタ構造の形成に成功した。さらに、p型ゲートより正孔を注入するGITにおいては伝導度変調を生じさせることで、ノーマリオフ動作を実現しつつドレイン電流を増大できるので、低オン抵抗の実現が可能となったとする。

2つ目は、高電圧印加後にオン抵抗が増大するという電流コラプスと呼ばれる現象を抑制するデバイス構造、およびこれを可能とするための量産化プロセス技術。電流コラプスによって連続動作時にオン抵抗が増大してしまい、トランジスタが安定動作しない場合がある。電流コラプスの原因は高電界により電子がトラップに捕獲されてしまうためと考えられるが、今回、量産化プロセス技術の開発を通してトラップ密度を減少させるとともに、電界を緩和するトランジスタ構造を導入した。これにより、600Vでの連続動作でオン抵抗増加を完全に抑制することに成功した。

そして3つ目は、低オン抵抗かつ低容量であるGaNパワートランジスタを1MHz超の高周波動作に適用するための回路設計・評価技術。パワートランジスタのスイッチング動作においては、オン抵抗(Ron)とゲート電荷量(Qg)の積であるRonQgの低減が高速動作に向けての指標となる。今回、最新のSi MOSトランジスタと比較して約1/13の715mΩnCという小さなRonQgを実現したほか、GaNトランジスタをAC-DC電源における代表的なDC変換回路である共振型LLC回路に適用しており、1MHzの高周波動作時で1kWの出力かつ96%超の高効率動作を確認したという。

なお、同製品は3月中のサンプル出荷開始予定となっている。

パナソニックの量産対応GaNワートランジスタ