九州大学(九大)などで構成される研究グループは、自然界に存在する水素活性化酵素「ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼ」をモデル(模範)として、同様の働きをする新しいニッケル-鉄触媒を開発したと発表した。

成果は、九大 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所/工学研究院の小江誠司教授、総合科学研究機構、茨城大学らの研究グループによるもの。詳細は、米国科学雑誌「Science」のオンライン版で公開された。

次世代エネルギーとして期待されている水素。自然界では、水素活性化酵素「ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼ」が常温常圧という温和な条件で、エネルギーキャリアである水素から電子を取り出しているものの、これまで同様の反応を同条件下で人工的に行うことはできなかった。

これまで研究グループは、水素活性化酵素であるニッケル-鉄ヒドロゲナーゼの人工モデルとなるニッケル-ルテニウム触媒の合成、および同触媒を用いた常温常圧で水素から電子の取り出し、分子燃料電池の開発などを報告してきたが、これらの研究では、高価な貴金属であるルテニウムを用いており、実用化・低コスト化の妨げとなっていた(ルテニウムの価格は約240円/g。ニッケルは約1.6円/g、鉄は約0.06円/gと、圧倒的に高い価格となってしまう)。

図1 ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼの活性中心の構造(Cys=システイン残基)

図2 ニッケル-ルテニウム触媒の構造

そこで研究グループは今回、自然界の水素活性化酵素であるニッケル-鉄ヒドロゲナーゼをモデルとして、新たなニッケル-鉄触媒を開発し、常温常圧で水素からの電子を電子受容体(フェロセニウムイオンやメチルビオロゲンなど)に移動させることに成功したほか、結晶構造の解明から、これまでニッケルか鉄のどちらにヒドリドイオンが結合しているかは分かっていなかった水素を活性化した後に生成するヒドリドイオン(H-)がニッケルではなく、鉄に結合していることを示すことに成功したという。

図3 ニッケル-鉄触媒の結晶構造

図4 ニッケル-鉄触媒を用いた水素からの電子抽出

なお、研究グループでは今後、今回の成果を活用することで水素エネルギー利用技術の発展、例えば、ニッケル-鉄触媒を用いた白金フリー燃料電池の開発などにつながることが期待できるとコメントしている。