千葉大学と基礎生物学研究所(NIBB)は2月1日、細胞のリサイクルシステムである「オートファジー(自食作用)」が、栄養が欠乏した環境下で細胞分裂を完了するために重要な要素であることを発見したと共同で発表した。

成果は、千葉大大学院 融合科学研究科の松浦彰教授、同・博士後期課程の松井愛子氏(日本学術振興会特別研究員)、NIBBの鎌田芳彰助教らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月31日付けで米国科学雑誌「PLOS Genetics」オンライン版に掲載された。

オートファジーは、細胞内成分を分解・再利用するリサイクルシステムだ。飢餓条件下の細胞ではオートファジーが誘導され、細胞内の不要なタンパク質が分解される。タンパク質の分解産物であるアミノ酸を再利用することで、細胞は栄養が欠乏した条件でも生存し続けることができる仕組みだ。

近年、オートファジーに関わる遺伝子やタンパク質の働きは次々と明らかになっている。また、オートファジーががんを抑制する働きを持つことも確認済みだ。

しかし、細胞の持つ遺伝情報に異常が生じた結果、細胞が無秩序に増え続けるようになる病気ががんだが、オートファジーがどのようにがんの発症を抑えているのかについては、まだよくわかっていなかった。

そこで研究グループは今回、出芽酵母を実験材料に栄養飢餓条件における細胞分裂状態の変化の経時的な追跡を実施。栄養飢餓状態にある細胞は、細胞分裂を完了した時期(G1期)で細胞周期を停止することが明らかになっている。

一方、研究グループのこれまでの研究で、細胞が栄養飢餓に曝されると、核が分裂する直前の時期(G2期)で細胞周期が一時停止することを明らかにしていた。研究グループは今回の研究で、G2期で一旦停止した細胞が再び分裂過程に入り、細胞分裂を完了するためにはオートファジーが必要であることを見出した形だ。

画像1は、栄養飢餓条件下での細胞周期進行におけるオートファジーの意義。細胞が分裂するためには、細胞周期におけるいくつかの段階を順次行う必要がある。栄養が豊富な条件から栄養飢餓条件へと変化すると、細胞は細胞周期のG2期で一時停止する。

オートファジーが正常に行われると、やがて細胞はM期へと移行し、G1期に至る。その後細胞は栄養条件が回復するまでG1期に留まる。一方、オートファジーができない変異細胞では、G2期で停止した後の細胞周期の再開に問題があり、核が異常に分裂した細胞が高頻度で生じてしまう。

画像1。栄養飢餓条件下での細胞周期進行におけるオートファジーの意義

オートファジーを行うことができない変異細胞はG2期に留まり続けるが、この状態の細胞に特定のアミノ酸を加えるだけで再び分裂過程に入ることから、オートファジーの役割は栄養飢餓により不足したアミノ酸を、自己成分の分解によって作り出すことにあることがわかるという。

そしてオートファジーを行うことができない変異細胞では、栄養飢餓に長時間曝されると異常な核を持つ細胞が現れ、さらにその後栄養条件が回復すると、染色体数が増えた細胞の出現頻度が増加することが判明。染色体数の増加はがん細胞で見られる異常の1つである。

このことから、オートファジーの働きにより栄養飢餓条件下で細胞分裂を調節する仕組みが、がんにつながる遺伝的な異常の発生を抑制していることが明らかになったというわけだ。

画像2。オートファジーができない細胞で見られる核の異常。矢じりは、1つの細胞内で分裂した異常な核を示す

なお、オートファジーには、がんや神経変性疾患などさまざまな病気を抑える働きがあることが知られている。そのため、出芽酵母をモデルとした今回の研究成果は、将来それらの予防・治療法に役立てられる可能性を秘めていると、研究グループはコメントしている。