国立遺伝学研究所(遺伝研)は2月1日、生きた動物個体内の神経細胞の活動を検出できるほど高感度なカルシウムセンサGCaMPの開発に成功し、モデル脊椎動物であるゼブラフィッシュにおいて脳の特異的な領域にGCaMPを発現させ、その領域の脳機能イメージングが行える遺伝学的手法の開発に成功したことを発表した。
同成果は同研究所の武藤彩 助教、川上浩一 教授および埼玉大学の中井淳一 教授らによるもので、詳細は米国科学誌「Current Biology」オンライン版に掲載された。
ヒトの目に入る世界は、脳の中の視覚情報処理を司る領域に、「視覚地図」として投影されており、このような脳の基本構造は、ヒトを含めた動物に共通に見られる特徴となっている。しかし、外の世界が脳内に投影される様子を自然な条件下でリアルタイムに観察した例はこれまでなかった。
そこで研究グループは今回、脊椎動物のモデルであるゼブラフィッシュを用いて、餌となるゾウリムシが周囲を動き回るときの稚魚の視覚系の活動の様子をリアルタイムで観察することに成功した。
具体的には、神経活動の検出は、神経細胞の電気活動に伴う細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を間接的に測定することにより行うことができることから、カルシウム濃度変化を検出できるカルシウムセンサの働きをGFPに付与した改良型GCaMP(人工タンパク質)を利用することで、ゼブラフィッシュの脳内にGCaMPを発現させ、視覚中枢である中脳視蓋の神経の活動をリアルタイムに可視化することに成功した。
これにより、捕食行動に関係した脳内の活動を脳機能イメージングによりリアルタイムで観察することに成功したこととなり、研究グループでは、今回の研究成果は、視覚認知などの脳の高次機能や、動物の行動を作り出す神経活動を直接観察する道を開くものとなり、脳の活動んも仕組みの解明につながることが期待されるとコメントしている。