九州大学(九大)は2月1日、国産高性能のRNAウイルスベクター(組換えセンダイウイルスベクター)を用いた臨床研究を実施し、その臨床成績を公表したと発表した。

同研究は、同大大学院医学研究院 臨床医学部門(消火器・総合外科学)の前原喜彦教授、九大病院 血管外科の松本拓也 副科長・助教と同大大学院薬学研究院(革新バイオ医薬創成学)の米滿吉和教授らによって行われたもので、臨床成績の詳細は米国遺伝子細胞治療学会誌「Molecular Therapy」オンライン版に掲載された。

下肢慢性動脈閉塞症は重症化すると、下肢切断に至る、生命予後が悪い動脈硬化を背景とした疾患であり、ライフスタイルの欧米化とともに日本でも罹患者が増加してきている。

もっとも有効は治療法は血行再建術だが、適応できない症例も多く、また治療剤もほとんどないため、人為的に新生血管を形成させる「治療的血管新生療法」の臨床評価が進められてきた。しかし、現在までに明確な有効性を証明した治療的血管新生療法は報告されていなかった。

研究グループは、これまでの研究から、DVC1-0101は動物を用いた評価系すべてにおいて、既存法と比較して高い治療効果を示すことを明らかにしてきたほか、そのメカニズムとして、FGF-2が内因性血管新生関連遺伝子群を強力に誘導する機能があると同時に、血流還流能が高い機能性血管を効率よく誘導することを明らかにしてきており、それぞれ単独因子による治療より高い治療効果が得られる可能性を示唆していた。

今回の研究では、安静時疼痛を有する計12例の被験者の片側肢・計12肢に対し、血管新生因子「塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF/FGF-2)」を発現する同ベクター(開発コード:DVC1-0101)が、1回のみ30カ所の下肢骨格筋に4段階の用量式斬増式により摂取された((第I/IIa相)。その結果、試験薬が直接関係すると考えられた重篤な有害事象は検出されず、また再現性よくかつ統計学的に有意に改善が認められた評価指標は「安静時疼痛」と「トレッドミル負荷試験における歩行機能」であったという。

また、サーモグラフィにおける投与肢足部温度や足趾脈波において、改善が見られる症例が複数観察されたという。

特に、国際的に歩行機能を改善する薬剤として十分なエビデンスを有するものはシロスタゾール(商品名:プレタール錠)のみであり、メタアナリシスデータからは約50%程度の改善(上乗せ効果)とされているが、今回の試験で得られたDVC1-0101の歩行機能改善効果(上乗せ効果)は約150~220%(閉塞性動脈硬化症症例のみ)となっており、同剤と比較してより高い改善効果を示す可能性があることが示された。

これらの結果を受けて研究グループは、第IIb相医師主導治験の準備を開始しており、すでにPMDA(医薬品医療機器総合機構)との協議において試験デザインの合意を得ているとのことで、2013年中の同治験の開始を見込んでいるとしている。

また、慢性動脈閉塞症治療薬の臨床評価における最大の問題点は、いわゆるプラセボ(偽薬)効果に加え、「治験施設ごとのデータのバラつき」にあることが明らかになっており、研究グループでは、この問題の解決に向け、現在、下肢慢性動脈閉塞性疾患国際取り扱い規約TASC-II(Transatlantic InterSociety Consensus)のチーフエディターで、同疾患治療薬臨床試験の権威である米国コロラド大学CPC Clinical ResearchのWilliam Hiatt教授の全面協力のもと、同教授が開発したエンドポイント測定標準化システム(EQuIP:Endpoint Quality Intervention Program)を導入し、的確なエンドポイント測定を実施し、日米のシームレスな効能評価系を構築、将来の国際共同治験への素地を確立しているとしている。

左上がDVC1-0101の細胞への感染様式の概念図。左下が実際の治療風景。右がDVC1-0101投与後の歩行可能距離の経時的変化(トレッドミル負荷試験による)