米Microchip Technologyは1月28日(現地時間)、アナログ電源にMCUを内蔵した新しい電源コントローラである「MCP19111」を発表した。この発表に先立ちMicrochip Japanにおいて、製品担当であるBryan Liddiard氏(Photo01)によりMCP19111に関する説明があったので、併せてご紹介したい。
Photo00:MCP19111のパッケージイメージ |
Photo01:Bryan J. Liddiard氏(Vice President, Analog Marketing)。氏曰く「俺はAnalog GuyなのでDigitalの事は判らない(笑)」だそうだが、しっかりDigital周りの質問にも答えてくださった |
MicrochipはPICシリーズMCUが一番有名であるが、実はAnalogのDiscrete部品を含む広範なAnalog Componentを扱っている(Photo02)。今回のMC1911はこの中でSwitching ControllerとPower MOSFETを組み合わせた製品ということになる。ターゲットとなるのは中電圧のDC/DC Converterである。具体的な製品としてはこんな感じ(Photo04)。従来このマーケットには、デジタル制御としてはdsPICとかPIC24を使ったデジタル制御ソリューションを、アナログ制御としてはMCP19035をはじめとするPWMコントローラを提供してきた同社だが(Photo05)、今回提供するMC19111はこのアナログ制御にSupervisorとなるMCUを組み合わせた製品となる(Photo06)。
Photo05:端的に言えば、制御のClosed Loopをデジタルで廻すかアナログで廻すかが両者の違いとなる |
Photo06:SuperVisorのMCUは、Closed Loopの外側に位置することになる。これがdsPICなどを使ったデジタル電源との最大の差である |
元々デジタル制御電源が必要とされるのは、負荷変動によって急速に電圧/電流が変化するような用途である。例えば最近のMCUは省電力化のために、負荷に合わせて電圧を動的に可変するし、しばしばそれは非常に短い期間で変化する。おまけに電圧が低い割に消費電力は大きいから、必然的に大電流が流れる。あるいは最近省電力化に向けてモーターの制御を完全電子化するケースが増えつつあるが、こうしたものも用途によっては激しい負荷変動があり、これに応じて短期間に電圧を急速に変動させる必要があるし、モーターだから必然的に電流も大きい。こうした用途は引き続きdsPICベースの製品が担うことになる。
したがってMC19111が担うマーケットは、ここまで激しい電圧変動が無く、従来のアナログPWMベースのClosed Loopで制御が間に合うような用途向けとなる(Photo07)。ではどうしてデジタル回路を入れるかという話であるが、設計時に定めた電圧から絶対変化させない! という用途は非常に少なく、普通は負荷などによって多少電圧が変化する。ただ、それがもっと緩やかというケースは少なくない。冷蔵庫のコンプレッサなど良い例だし、STBなどもこの例に属するだろう。こうした製品は、負荷変動に合わせて電圧などの変化はあるが、それはデジタル制御を行うほどのレスポンスタイムは必要ない。なのでClosed LoopそのものはPWMベースのアナログ制御で十分間に合うが、ただ負荷変動に合わせてパラメータを変更する必要がある。従来はこのために、外部にMCUなどを用意してPWM制御を行っていた。
ところがMC19111の場合はMCUをチップに内蔵しているので、PMBusあるいはI2C経由で制御パラメータをホストからMCUに送れば、あとはMCUからClosed Loopのパラメータを直接変更できることになる(Photo08)。またMOSFETドライバまで内蔵しているため、部品点数を最小限に抑えられる(Photo09)。
Photo08:ちなみにこれだけみるとMCUとAnalogの2つの部分が分離されたダイになっており、これをSIPの様にまとめているように見えるが、実際はモノシリックなダイである |
Photo09:あえて出力のMOSFETは内蔵していない。これについては後述 |
ちなみに実際に利用する場合には、こんな具合(Photo10,11)にMOSFETを組み合わせて使う事になる。これに関して氏は「MOSFETまで内蔵してしまうと、製品の柔軟性が欠けることになる。Photo12に示すようにMicrochipは幅広いMOSFETを用意しており、これを組み合わせることで幅広いレンジの要求に応えられるようにした」との事だった。
Photo12:これはコチラを簡単に一覧にしたもの。MCP87018/87030/87090/87130の4製品は、今回MCP19111と併せて発表された |
開発ツールとしては、MPLAB Xと連動可能なGUIツールがあり、これでアナログ部のClosed Loopのパラメータを自由に選択できる(Photo13)。また評価用ボードとしてADM00397(Photo14,15)が用意される。このMC19111は同日よりサンプル及び量産出荷を開始するとの事だ(Photo16)。
Photo13:「Analog GuyはCのプログラミングとかしたくないから、パラメータをここで設定するだけで使えるようにした」との事 |
Photo14:こちらはプレスリリースに併せて示されたボード外観 |
Photo15:これは氏が見せてくださったもの。トランスの相違もさることながら、コンデンサの数が違うのは試作品だからだろうか? MC19111+MOSFET×2の実装面積が500円玉1個より小さい程度に収まっているのがわかる |
Photo16:MCP19111のパッケージそのものは5mm角のQFNに収まっている。氏曰く「もし2ダイ構成ならこのサイズには収まらない」との事 |
さて、氏の説明はこんな感じだったが、以下もう少し細かい話を。まずMCP19111に搭載されるMCUであるが、これはPIC12F相当のコアである。Flash Memoryは8KB(4Kword)、RAMは256バイトとなる。勿論このPIC12FコアはMPLAB Xを使って普通にプログラミングも可能だ。氏曰く「もし顧客が独自の電源制御アルゴリズムを持っているのであれば、それをプログラミングして使うことも可能である」としている。では先程Photo13で出てきたGUIツールは何をするものか? というと、こうした独自のアルゴリズムを必要としない場合に、デフォルトで動作するプログラムのパラメータをGUI方式で設定できるという事の様だ。このGUIでは、例えばOn/OffのSwitchingのDead Ttime Delayを4ns単位で設定するなど、かなり細かな制御が可能となっている。12Fを利用したのは、「このコアが非常に小さく、消費電力が小さいから」だそうで、それでもPIC10よりは周辺機器を色々接続できる余地があるからだろう。
ところで上でPIC12F「相当」と書いたのは、厳密な意味ではPIC12Fとはやや違うからだ。どの辺が違うかといえばPIC12Fは言うまでも無く通常のFlash Processを使って製造されているが、MCP19111はBCDMOSを使って製造されており、このBCDMOS上にFlashを含むMCUロジックを全部集積出来たことが、MCP19111の隠れた最大の特徴と言えるだろう。もっともこれはプロセスの違いの話であって、プログラミングの観点からすれば通常のPIC12Fと同じものだそうである。
次にUsage Model。Photo04で「でもサーバとかデスクトップPCは消費電力多くないですか?」と聞いたところ「CPUは確かにそうだけど、DC/DCコンバータが必要なのは別にCPUだけではない」という答えが。要するに周辺回路などで、それほど煩雑に供給電圧/電流の変動が無いようなところがMCP19111のターゲットになるという話であった。
もっとも、これ「だけ」ではないようだった。Photo04の用途のほとんどは12V供給があれば十分だが、Photo08で判るとおりMCP19111は最大32VまでのVINに対応している。「ここまで広げている理由は?」と尋ねたところ、「イヤ動くんで(笑)」と言いつつ、「ビル管理系の、例えば煙探知機などの機器は24V対応のものが多い。こうした用途にも対応できるようにした」との事だった。逆に携帯機器向けにはまったく考えていないそうで、こうした用途に必要とされる充電管理などを取り込むつもりは今のところ無いという話だった。そもそもPhoto08にも有る通りVINの最小は4.5Vで、これは最近の携帯機器向けにはちょっと高めである。あくまでもMCP19111は据え置き機器向けにターゲットを絞っているとの事だった。
ついでに「12Vと24Vを扱えるという事は、自動車向けにも利用できるのでは?」と水を向けたところ、会社としては自動車マーケットと話をしているが、現時点では具体的な製品計画はないという話だった。またI/Fに関して、「ビル管理などという事だと、PMBusとかI2C以外にCANという選択肢もあるのでは?」と突っ込んだところ、実に微妙な表情を見せながら「今はその製品はないが可能性はありえる」という返事だった。そこでさらに突っ込んだ結果として判ったのは、今後の可能性はありそう、という事だった。
Microchipとしては、MCP19111は単体の製品ではなく、Digitally-Enhanced Power Analog Controllerという製品ファミリの最初の製品という位置づけになっているそうである。当然ファミリというからには後継の製品もある(対外的には未公開であるが、社内的には向こう5年分のロードマップがあるとか)そうで、氏曰く「今はMOSFETをドライブしているが、例えば将来はIGBTの駆動をする可能性もある」との事。そうした中にはCANのI/Fを搭載したものとか、自動車向けラインナップなども用意されてくるのではないか? と筆者は予想している。
ちなみにPhoto07で「ユーザ独自のアルゴリズムとありますが、そういうユーザーは大体今までdsPICとかの上でソフトウェア動かしてたわけで、ソフトウェア互換という観点ではdsPICのコアを乗せるという案は無かったのですか?」と確認したが、氏曰くdsPICで動くソフトウェアの移植は非常に簡単とのこと。元々バイナリ互換が必要な訳ではないし、あくまでもClosed LoopをMCUの外に出すというこの製品のコンセプトからすれば、dsPICである必要はないのだろう。「16bitだと消費電力が大きすぎる」というあたりも問題だったそうだ。ただ逆に言えば、dsPICにMOSFETドライバを搭載することで、より高集積化したデジタル電源のSolutionはありえるのだろうが、今のところはそうした必要はないという話だった。もっともBCDMOSでdsPICまで集積できるのかはちょっと疑問が残るところで、コストとか消費電力を考えると微妙なところなのかもしれない。
ちなみに現時点では、Design Winとか売上予定などの具体的な数字は一切未公開との事であるが、何分にも競合の多いマーケットだけに、どの程度のシェアをこれで握れるのかがちょっと興味ある部分である。