国立環境研究所(NIES)、北里大学、東京医科歯科大学(TMDU)、広島大学、早稲田大学(早大)の5者は1月23日、生殖腺ができる前のニワトリの胚を用いてオスとメスの脳を入れ替えた「キメラニワトリ」を作製し、脳がオスで体がメスのニワトリの成鳥では、行動や性ホルモンの血中濃度はメス型であるにも関わらず、性成熟の遅れや産卵周期に乱れが生じることから、生殖機能に障害が現れることがわかったと共同で発表した。

成果は、NIES 環境健康研究センターの前川文彦主任研究員、北里大 一般教育部および大学院 医療系研究科の浜崎浩子教授、TMDU 難治疾患研究所の田中光一教授、広島大大学院 生物圏科学研究科の都築政起教授、早大教育・総合科学学術院の筒井和義教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、英国時間1月22日付けで英国オンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

ヒトを含む脊椎動物では、オスとメスでは体の作りや生理機能において多くの違いがある。メスでは卵巣、オスでは精巣の分化・発達が起こり、それぞれの器官から分泌される性ホルモンの働きによって、これらの性差のほとんどが生じるということが通説だ。

一方、性分化に別のメカニズムが関与することも近年になって示唆されるようになってきているが、まだ不明な点が多く残されている。また、ヒトでもさまざまな脳の疾病で、男性と女性で罹患率や病態が異なることが報告されているが、その原因は必ずしも明らかにはなっていない。

今回、脳の性によって決まるオスとメスの性質を調べるために、脳とそれ以外の体の性が異なるキメラニワトリが作り出され、解析が行われた(画像1)。鳥類はご存じの通りに卵の中で胚が育つので、外科的操作を行いやすく、発育初期の胚で脳を交換することが可能だ(画像2)。なお、脳の交換は精巣や卵巣ができる前に行われた。

画像1。将来脳になる部分を、胚の段階でオスとメスとで入れ替えた

画像2。脳と体の性が異なるキメラニワトリ

そして、成長したキメラニワトリを観察。脳がメスで体がオスであるニワトリの行動は、性行動も含めて、通常のオスと区別がつかなかった(画像3)。一方、脳がオスで体がメスであるニワトリの行動は通常のメスと同じだったが(画像3)、産卵開始の遅延や産卵周期の乱れによる産卵数の減少が見られた(画像4~6)。

画像3。性行動は脳の性に関わらず、体の性に依存

画像4。オスの脳を持つメスの産卵には異常が生じた

画像5。初回産卵日の遅延

画像6。産卵率の低下

なお、血中の性ホルモンの濃度が脳の性によって変化することはなかったが、体がオス型かメス型かに関わらず、脳に含まれる女性ホルモンの1種である「エストラジオール」の量が、オスの脳ではメスの脳よりも高いという結果も得られた形だ。

今回の研究成果は、メスを特徴づける性質の内、性成熟のタイミングと性周期は遺伝的にメスである脳による制御が必要であり、遺伝的にオスである脳ではその機能を完全には担うことができないことを示したものとなった。

オスとメスの脳には、精巣や卵巣からの性ホルモンに依存せずに、発達様式がもともと異なる神経回路があり、その回路の異常がメスまたはオスの持つ特異的な機能に障害をもたらす可能性が考えられるという。

なお、今後このような神経回路を詳細に調べることができるようになれば、脳の性差、性特異的な機能障害の原因、さらに脳疾患の男女差の解明に近づくことが期待できると研究グループはコメントしている。