国立天文台は1月4日、巨大なガス惑星の誕生における重要な一場面として、惑星形成時に生じると理論的に予想されていた、原始惑星系円盤の「すき間」の中に流れ込むガスの流れをアルマ望遠鏡を用いて直接観測することに成功したと発表した。

チリ大学の国際研究チームによるサイモン・カサスス氏が率いる国際研究チームによる成果で、研究の詳細な内容は、1月2日付けで英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。

今回観測された恒星は、おおかみ座の方向に地球から約450光年の距離にある「HD142527」という若い星だ。ガスや塵でできた原始惑星系円盤がその周囲を取り巻いており、この中で惑星が誕生すると考えられている。

HD142527の円盤には、今まさに誕生しつつある巨大ガス惑星によって作られたすき間があり、内側と外側に分けられているのが特徴だ(画像1・2、動画1・2)。内側の円盤は、太陽から土星までの距離に相当する位置(約15億km)まで広がっており、外側の円盤はさらにその14倍も遠いところにある。外側の円盤は、馬の蹄鉄のようなゆがんだ形をしており、巨大惑星の重力でこのような形になったと考えられるという。

理論研究によれば、巨大ガス惑星はその惑星自身よりも外側にある円盤からガスを取り込むため、円盤のすき間の中には、成長中の惑星と円盤とを「へその緒」のようにつなぐガスの流れがあると考えられている。

研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、HD142527を取り巻くガスと塵の環をこれまでになく詳細に観測。特にアルマ望遠鏡が観測をしたサブミリ波領域では中心の星自体はそれほど明るくなく、可視光・赤外線望遠鏡では星の光に邪魔されて詳しく調べることのできない星のごく近傍も観測することが可能だ。

円盤のすき間そのものはこれまでの観測でも見つかっていたが、今回の観測ではそのすき間の中に残る淡いガスをとらえることができ、さらに外側の円盤からすき間を横切って内側の円盤に流れ込む2本のガスの流れも見つかった。

画像1は、アルマ望遠鏡がとらえた、HD142527の周囲のガスと塵の円盤。外側の円盤にある塵の分布を赤、外側の円盤とそこから内側に流れ込むガス(HCO+分子)の分布を緑、すき間の中に残るガス(一酸化炭素分子)の分布を青にそれぞれ色付けされている。外側の円盤から流れ込むガスは、時計の3時の方向と10時の方向。外側の円盤の大きさは約500億km(太陽と海王星の間の距離のおよそ11倍)にもおよぶ。

画像2は、HD142527の円盤のイメージ図。馬蹄形をした外側の円盤から、すき間を通って2本のガスの流れが内側に伸びており、ガスの流れの中には成長しつつある惑星が1つずつあると考えられている。

画像1。アルマ望遠鏡がとらえた、HD142527のまわりのガスと塵の円盤。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO), S. Casassus et al.

画像2。HD142527の円盤のイメージ図。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/M. Kornmesser(ESO)

動画
動画1。HD142527の円盤のイメージ動画。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/M. Kornm
動画2。天の川からHD142527へのズームイン動画。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/Nick Risinger(skysurvey.org)Music:movetwo

「私たちは、この2本のガスの流れのそれぞれの内側に、作られつつある巨大惑星があると考えています。惑星は外側の円盤からガスを取り込みながら成長しますが、その食べ散らかしっぷりはひどいものです。惑星に取り込まれなかったガスは惑星を通り過ぎ、内側の円盤に落ちていきます」と語るのは、研究メンバーの1人であるチリ大学のセバスチャン・ペレス氏だ。

アルマ望遠鏡を用いた今回の観測で、HD142527の円盤に関するもう1つの疑問にも答えが見つかった。それは、中心の星であるHD142527自身も周囲の惑星と共にまだ周囲からガスを取り込みながら成長している途中であり、内側の円盤からガスを吸い取っているはずだ。つまり、何らかの方法で円盤にガスが供給されなければ、星にガスを吸い取られて円盤は消えてしまうはずというものである。

今回の観測の結果、すき間を横切って外側の円盤から内側の円盤に流れ込むガスの量が見積もられ、これは内側の円盤の形を保ちながら中心の星にガスを供給するのにちょうどよい量であることがわかった。

さらに、若い星を取り巻く円盤のすき間の中に淡いガスが見つかったのも今回が初めてのことである。「この淡いガスを天文学者は探し続けてきましたが、これまでは間接的な証拠しかありませんでした。アルマ望遠鏡を使った高感度の観測で、私たちは初めてそれをとらえることができました」と、研究メンバーの1人であるチリ大学のゲリット・ファンデルプラス氏はコメント。

すき間に残るガスは、そこにできつつある天体がより重い伴星ではなく、惑星であることを示しているという。「もし伴星ができているのであれば、すき間にはガスが残らないはずです。ここに残っているガスの量を調べることで、できつつある惑星の質量を精密に見積もることもできるかも知れません」と、前述のペレス氏は今後の研究に期待している。

また、惑星そのものを直接観測できるか否かについてもカサスス氏は、「惑星を直接観測することはできませんでしたが、それは驚くことではありません。最先端の赤外線望遠鏡でも惑星を探しましたが、見つかりませんでした。きっと惑星はまだ不透明なガスの流れの中に深く埋もれていて見えないのだと思います」と語った。

惑星そのものは見えなくても、周囲にあるガスを調べることでこの惑星について研究することは可能だ。なお、アルマ望遠鏡は建設途中であり、最高性能を発揮するのはまだ先のことである。完成すれば解像度は圧倒的に向上するので、今回のHD142527の円盤内のガスの流れを詳しく調べれば、その惑星の質量など、より詳しい情報を引き出すことができることだろう。

またカサスス氏は、「アルマ望遠鏡でこのガスの流れを直接検出できたおかげで、惑星形成に関する理論研究がさらに大きく進展するでしょう」とも語っている。