群馬県立群馬産業技術センター(群馬産業技術センター)と日本原子力研究開発機構(JAEAは12月10日、JAEAが開発した新しい育種法「イオンビーム育種技術」で作り出した2000株以上の中から、風味のバランスが良く、従来の酵母にはない"甘い香り"を持つ新酵母を選出し、3年間の醸造試験を行った結果、十分な醸造適性があることが確認されたことを発表した。

近年、清酒は観光・地場産業振興の有力なツールという認識が広まりつつあり、その地域にあった特色を持った商品が求められるようになってきている。そのため、開発手法の1つとして、各県の試験研究機関が独自の清酒酵母開発を進めており、群馬県でも2002に県独自の吟醸用清酒酵母(群馬KAZE酵母)を実用化するなどの取り組みを進めてきた。

今回の研究は、市場における嗜好の変化に対応することを目的に、2008より群馬産業技術センターとJAEAが共同で研究を行ってきたもので、JAEAの高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(TIARA)を利用した新しい育種法「イオンビーム育種技術」による酵母の開発が進められてきた。

イオンビーム育種技術によって生み出された2000株以上のイオンビーム照射酵母から、香り成分の生成量を指標に選抜を進め、残った優良株35株(候補)について、群馬産業技術センターで白米60kg規模の試験醸造を3年間実施した結果、十分な醸造適性があると確認された1株が最終的に選出されたという。

新酵母の発酵力は、従来のKAZE酵母と遜色がないほか、風味は、吟醸酒の主要な香り成分(カプロン酸エチル)はKAZE酵母と同等以上ながら、独特の甘い香りを備えており、これにより新たなタイプの吟醸酒製造が期待できるようになるという。

そのため研究グループは今後、同酵母を群馬県オリジナルの新しい吟醸酵母として、希望する県内酒造蔵に頒布していく予定としている。

今回の醸造酵母開発の概要(左)と試験で製造された酒の成分(右)