東北大学(東北大)は、胎仔に存在し活発に増殖を繰り返す未分化な生殖細胞が、転写制御因子であるLarp7が機能しなくなることで、細胞周期の進行を阻害する遺伝子の発現が誘導され、その増殖が停止することを発見したと発表した。

同成果は同大 加齢医学研究所 医用細胞資源センター センター長の松居靖久 教授の研究チームならびに米国ソーク研究所、米国NIH、理化学研究所、慶應義塾大学らによる共同研究によるもので、詳細は米コールド・スプリング・ハーバー研究所が出版する生物学に関する学術雑誌「Genes & Development」に掲載された。

胎仔に存在する始原生殖細胞は、精子や卵子の元となる未分化な生殖細胞で、胚発生の初期段階において、多能性幹細胞集団の一部から形成されている。

最初は数十細胞程度に過ぎない始原生殖細胞は、その後、活発に増殖し数万細胞程度にまで達した後、胎齢中期に増殖を停止する変化を見せるが、研究グループでは、この始原生殖細胞で特異的に発現する遺伝子のスクリーニングを実施、その結果、転写制御因子「Larp7」が始原生殖細胞の増殖に重要な役割を果たしていることを見いだした。

Larp7は7SK snRNP複合体の構成因子であり、この複合体は転写伸長を促進するP-TEFbタンパク質と結合し、その活性を抑制することにより細胞内での転写活性を抑制的に調節する働きがある。

研究で、このLarp7遺伝子のノックアウトマウス胚を調べたところ、始原生殖細胞数が顕著に減少することが確認されたという。また、詳しい解析を行った結果、Larp7が細胞周期のG1期からS期への移行を促進する働きを持ち、それにより始原生殖細胞の活発な増殖が保証されていることが判明したほか、このLarp7による細胞周期の促進は、G1-S期の進行を阻害するCDK阻害因子遺伝子の発現を抑制することによっていることが分かったという。

なお、研究グループでは、今回の結果は、同遺伝子の異常が生殖細胞の形成不全に原因のある不妊症や、始原生殖細胞の増殖異常により引き起こされる一部の小児腫瘍の原因となっている可能性を示唆したものだとコメントしている。

Larp7遺伝子を欠損したマウス胚(Larp7-/-)の始原生殖細胞(緑色)は、正常胚(Larp7+/+)に比べて細胞数が顕著に少ないことが見てとれる