東北大学(東北大)は、グラファイト(黒鉛)2層の間にカルシウム原子を挿入(サンドウィッチ)した2層グラフェン層間化合物の作成に成功したことを発表した。グラフェンを用いた高効率なマイクロバッテリーや超薄膜超伝導デバイスへの道を開くものになるという。

同成果は、同大 原子分子材料科学高等研究機構の菅原克明 助教、一杉太郎 准教授、高橋隆 教授らの研究グループによるもので、詳細は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」オンライン版にて公開された。

グラフェンは、炭素原子が蜂巣格子のネットワークを組んで形成された一枚の原子シートで、2010年にはノーベル物理学賞(Andre Geim氏およびKonstantin Novoselov氏)を受賞するなど、その基礎および応用研究が世界各地で進められている。

グラフェンが何層にも積層したものが黒鉛(グラファイト)で、鉛筆の芯などに利用されており、そのグラファイトの層間にカルシウム(Ca)などの金属原子を挿入したものが「グラファイト層間化合物」と呼ばれ、低温で電気抵抗がゼロとなる超電導を示すことなどが知られている。

また、グラファイト層間化合物は、リチウムイオンバッテリーの負極材にも用いられており、産業応用上重要な物質に位置づけられているほか、グラファイト層間化合物を最も薄くした2層グラフェン層間化合物は、金属原子の出入りが従来のバルク体に比べて遙かに速く高効率のため、高速マイクロバッテリーの電極材料として利用する事が提案されているほか、グラフェン層間化合物における超電導発現の可能性など、超薄膜超電導デバイスへの可能性も検討されている。しかし、高品質なグラフェン層間化合物、とりわけバルク体で最も高い超電導転移温度を示すカルシウム化合物については、その作製法が確立されておらず、研究進展の妨げとなっていた。

(a)はグラフェン、(b)は2層グラフェン層間化合物の結晶構造

今回、研究グループは、黒鉛超伝導体で最も高い超電導転移温度を持つカルシウム-グラファイト層間化合物(C6Ca)の最薄極限である2層グラフェン層間化合物(C6CaC6)の作成に成功しました。作成手法としては、リチウム(Li)-グラファイト層間化合物を最初に作成し、次にLiとCaを交換する「原子交換法」という手法が用いられた。作成されたカルシウム-グラフェン層間化合物の性質を、光電子分光法と走査型トンネル顕微鏡を用いて調べた結果、バルクのグラファイト層間化合物で超電導発現の起源と考えられている「グラファイト層間電子」が、2層グラフェン層間化合物においても存在していることが見出された。

光電子分光の概念図。物質に高輝度紫外線を照射して出てきた光電子のエネルギー状態を測定する

走査型トンネル顕微鏡の概念図。探針-試料間に発生する微小なトンネル電流を利用して、表面形状や局所電子状態を観察する

なお、研究グループでは今後、同手法を用いて作成したグラフェン層間化合物の研究から、金属原子の出入りの機構とその制御、さらに超電導などの特異な性質の理解を進めていくことで、グラフェン層間化合物を用いた高効率マイクロバッテリーや超薄膜超電導デバイスへの応用研究が進むものと期待されるとコメントしている。