鹿児島大学、東北大学、茨城大学、首都大学東京(TMU)、日本原子力研究開発機構(JAEA)の5者は11月6日、岐阜県坂祝町の木曽川河床から採取された岩石試料について、「ICP質量分析装置」や「多重ガンマ線検出装置」などを用いた分析を行い、今から約2億1500万年前の三畳紀後期に巨大な隕石衝突が起こった証拠を発見したと共同で発表した。

成果は、鹿児島大の理工学研究科の尾上哲治助教、同・博士前期課程の佐藤峰南氏、同大理学部物理科学科の根建心具(ねだち・むねとも)教授、東北大大学院 理学研究科地学専攻の中村智樹教授、茨城大 理学部理学科地球環境科学コースの野口高明教授、TMU大学院 理工学研究科 分子物質化学専攻 宇宙化学研究室博士後期課程の日高義浩氏、同・都市教養学部 理工学系 化学コース 理工学研究科 分子物質化学専攻の白井直樹助教、同・海老原充教授、JAEAの大澤崇人氏、同・初川雄一氏、同・藤暢輔氏、同・小泉光生氏、同・原田秀郎氏らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間11月6日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

三畳紀後期(三畳紀は前・中・後期と細分され、後期は今から2億~2億3700万年前の期間)には、幾度かの生物絶滅イベントが知られている。従来の研究では、恐竜の絶滅で有名な6500万年前の白亜紀/古第三紀境界の隕石衝突イベントのように、三畳紀後期の絶滅イベントもまた隕石衝突に関連性があるのではないかと考えられてきた。

しかし、これまで隕石衝突により形成された地層である「イジェクタ層」(隕石衝突によりクレーター内部から放出された物質が堆積した地層)は、海底で堆積した化石を含む地層からは見つかっておらず、そのため隕石衝突と絶滅の関連性について議論することができなかった。

研究グループは、三畳紀後期の隕石衝突の証拠を探す目的で2009年4月から研究を開始。研究対象は、岐阜県坂祝町の木曽川河床に見られる岩石の1種「チャート」だ。

チャートは、二酸化ケイ素を主成分とする硬く緻密なケイ質堆積岩の総称で、木曽川河床に見られるチャートは、主に放散虫と呼ばれる二酸化ケイ素の骨格を持つ海生浮遊性プランクトンの死骸が深海に降り積もってできたものである。

チャートは陸域から遠く離れた深海で堆積した地層であり、陸上物質の混入(例えば火山灰や風成塵など)が少なく、隕石衝突などによる地球外物質の混入をみつけやすいという特徴がある。

2010年には、チャートの間に挟まれた粘土層(画像1)から、隕石衝突により形成されたと考えられる直径1mm以下の「スフェルール」(画像2)と呼ばれる球状粒子が発見された。

画像1。隕石衝突が記録された粘土層の写真。岐阜県坂祝町の木曽川右岸河床

画像2。隕石衝突により形成された球状のスフェルール(A, B)の光学顕微鏡写真とニッケルに富むマグネタイト(C,Dの明るい粒子の部分)の電子顕微鏡写真

この粒子については、隕石衝突に由来する物質であるかどうかを確かめるために、「放射光X線回折分析」や、「電子線マイクロアナライザ」などの機器分析が行われた。さらに粘土層については、地球外物質の混入を調べる目的で、ICP質量分析装置や多重ガンマ線分析装置を用いて元素を詳細に分析したのである。

元素分析の結果から、地球表層には一般に極めて微量にしか存在しない白金族元素が、岐阜県坂祝町の粘土層中に異常に高い濃度で含まれることが明らかになった(画像3)。

画像3。岐阜県坂祝における白金族元素濃度の垂直変化。粘土層の下部に白金族元素が非常に高い濃度で含まれる。オスミウム、ルテニウム、白金の値はICP質量分析による

これは、地球上の火山活動などのプロセスでは説明できないほど過剰なものだった。そして、隕石との元素濃度の比較から、粘土層に含まれる白金族元素は巨大な隕石の衝突によりもたらされたものと結論づけられたというわけだ。

また粘土岩に含まれるスフェルールには、白亜紀/古第三紀境界からも見つかっている「ニッケルに富むマグネタイト」と呼ばれる鉱物が含まれていた。これも隕石衝突に起源を持つ粒子であると考えられるという。

チャートには、大きさ1mm以下の微小な化石(放散虫とコノドント)が含まれている。これらの微化石が示す年代から、この隕石衝突が今から約2億1500万年前の三畳紀後期に起こったことが明らかになった。

この時期に形成された巨大なクレーターとしてカナダケベック州のマニクアガンクレーター(画像4)が知られている。見つかったイジェクタ層はこのクレーター由来の堆積物と考えられるとした。

画像4。カナダケベック州、マニクアガンクレーターの衛星写真(提供NASA)。クレーターの内部は人工のダム湖になっている。クレーターの直径は100 kmで、今から約2億1500万年前の隕石衝突により形成された

また微化石の検討から、海洋プランクトンの多くの種がこの隕石衝突イベントを生き延びたことが明らかになったが、同時期の北米の地層からはアンモナイトや陸上の動植物の絶滅が認められている。これらは白亜紀/古第三紀境界とは質的に異なる絶滅パターンと考えられ、地球史における隕石衝突と生物の絶滅の多様性を示唆するものだという。

今回の研究では、三畳紀後期に起こった隕石衝突が北米の動植物の絶滅の原因となった可能性を示唆しているが、海洋プランクトンはその影響を受けず多くの種が生き延びたことを明らかにした。

それを受けて研究グループは今後、この隕石衝突によりどのような生物が絶滅の影響を受けたのか(絶滅の選択性)について研究を行う予定としている。そのため、世界各地の三畳紀後期の地層から同様のイジェクタ層を探索する予定だ。さらに、隕石衝突が地球環境に与えた影響(例えば寒冷化や酸性雨など)についても、地球化学的な視点から研究を発展させていくとしている。