Wind Riverは11月2日、都内で医療分野の状況と同分野で用いられる組込機器に対する同社の取り組みについての説明を行った。

Wind River,General Manager,Intelligent Systems GroupのSanthosh Nair氏

説明にあたった同社General Manager,Intelligent Systems GroupのSanthosh Nair氏は、「医療分野は航空宇宙分野など、ほかの分野とくらべものにならないほど複雑な分野。それは人の命を預かるためであり、そのためにさまざまなスタッフが関与し、機器の種類や適用範囲も幅広いものになっている」と、病院内はさまざまな課に分かれているが、そうした現場で発生する多種多様な患者のデータをシームレスに、かつ規制に準じた形で、課の内外や病院間で連携が取れなければ患者の治療に支障がでてきて、場合によっては命に係わる問題に発展することなどを指摘、そうした問題を起こさないためには機器やデータの相互運用性が重要になってくると指摘した。

また、「院内の医療機器や家庭内のヘルスケア機器がシームレスにデータをやり取りし、もっとも望ましい結果を患者に届けるのが相互運用性だが、病院内だけでも、ルールが複雑すぎて、相互運用に支障がでる場合もある。そうした状況下における相互運用性の担保は、まずスタンダードを確立し、ITによる安全性を確保する必要がある」とするが、「そうした相互運用性はまだ病院では確立されておらず、結果として、機器の連携に対して複雑性が増し、コスト高になっている」と現状と目標が大きくかい離しているとする。

「こうした現状により、医療関係者は機器相互の連携ができないため、連携をさせるための時間がその都度発生し、本来であればイノベーションを生み出すために費やされるための時間が無駄に浪費されることとなっている。例えば、米国のある大手病院では、実際に医療機器を購入した際に投資費用の40%が相互運用性を確保するために費やされており、これは年間で4000万ドルが運用性の確保のために費やされた計算となる」としており、こうした要因として、「さまざまな機関や企業などが相互運用性を目指した取り組みを進めているが、誰も本当の意味での旗振り役になっていない」と、あまりに多くの規制や規格が存在するため、標準化が進められない状況に陥ってしまっていることを指摘し、「最終的には良い規格に絞るための話し合いを進め、規格の統合を図っていく必要がある」との見方を示した。

また、「現状、医療機器ベンダが相互運用性を確保するメリットが無いことも問題」と、相互運用性が確保されていないことによる参入障壁が、高い利益率を実現することに役立っていることにも言及。相互運用性の確保による参入障壁が低くなることで、既存シェアを新規参入者に奪われる可能性がある限り、簡単には話が進まないことも付け加えた。

病院といってもさまざまな課に分かれており、それぞれの課において多種多様な医療機器が用いられている。また、家庭内にもヘルスケア機器が数多くあり、これらが相互に連携してデータのやり取りができるようになれば、医療費の軽減やより質の高い治療を受けやすくなる、といったメリットなどを受けやすくなる

医療機器に関しては規格認証団体や医療機器メーカー、政府などなど、さまざまな機関や団体などが相互運用性の重要性を認め、それに向けた取り組みを行っているが、これまでの医療機器に向けた規制や規格の数が多すぎるなどの問題から、決定的なものを打ち出せていないのが現状たという

では袋小路かというとそうでもないと同氏は述べる。現在は、将来に向かって良い方向に進んでいるという。というのも、医療機器は部品、半導体デバイス、OS、そしてそれらを統合するシステムデザインがなされて、最終的にOEMベンダがそれを組み合わせて納入するという流だが、これまでの相互運用性を担保しようという動きはこの最上層のOEMベンダを中心とした考えであった。そこで同社ではソフトウェアの面から相互運用性を確保できるように働きかけることで、OEMベンダはもともと相互運用性が確保されたコンポーネントを用いて機器を作ることとなり、結果としてシステムそのものの相互運用性を担保する必要がなくなるという。

「将来の医療機器でも、他の組込機器同様、マルチコア化が進んでいく。すでに採用が進みつつあり、価格としてもこなれてきた。一方。このマルチコア化により、システムの設計が複雑化してきていることも確か。複数のプロセッサやモジュールをシステムに搭載する必要が出てきており、こうした負担を軽減することを目指し、我々は1モジュールに複数のコアを搭載可能な技術開発を進めている。例えば、Wind River Hypeiserを活用すれば、コアごとに異なるOSを稼働させることが可能となり、これによりシステム側からは1つのプロセッサとしながらも、バックグランドでは複数のOSを走らせることが可能になる。すでにこうした技術は航空宇宙分野などでも使われており、医療機器分野でも近いうちに採用が進むとみている」と、医療機器における仮想化技術の活用を進め、OSレベルでの相互運用性の確保を進めていくとする。この取り組みに関しては、他のOSとの連携も進めており、規格の統合に向けた話し合いも進めているという。

また、同社の親会社であるIntelが提供するCPUアーキテクチャはPCを中心としているが、病院内にも多くのPCが導入されており、そうした機器との連携という意味での相互運用性もIntelと連携することで確保できることから、法整備や既存医療機器メーカーに向けたインセンティブの確保なども含めて、マーケットリーダーとして声を上げ、規格を提供していくことで、正しい方向性を提示していきたいとした。

これまで相互運用性は医療機器を提供するOEMベンダが確保することを求められていたが、その下流にあるソフトウェアのレベルで確保することにより、機器の製造などの上流段階での相互運用性確保は不要になるという