新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東京大学は10月11日、「銅系化合物酸化チタン」(画像1)材料で従来よりも優れた抗菌効果に加え、これまでは実現困難とされていた抗ウイルス性能に優れた新しい光触媒材料を開発したと共同で発表した。

今回の成果は、NEDOが実施した「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」において、東京大学と助成先各社(昭和タイタニウムなど)が、新しい原理に基づいた光触媒材料の開発を実施した結果である。

画像1。銅系化合物酸化チタン

近年、生活環境を脅かすさまざまな問題が顕在化しており、早急な解決に向けた技術開発が求められている。具体的には、室内外の環境破壊を促進する多種多様な有害化学物質への対策、院内感染問題をはじめとする抗菌・抗ウイルス対策、土壌汚染対策などが強く望まれており、国の施策の下、健全な経済産業活動と安心・安全な生活環境の実現が急務となっているところだ。

現在上市されている光触媒製品は、「紫外光応答型光触媒」を用いた製品が中心であり、外装建材、浄化用フィルター材を中心に市場が拡大しているものの、紫外線の少ない室内などでの利用は限られている。こうした中で、2001年には部分的に可視光を吸収する光触媒が日本で開発されたが、その性能は現状では室内などの環境で使用するには不十分だった。

このような紫外線の少ない環境下での光触媒の潜在的ニーズを含めれば、光触媒市場は今後20年間で3兆円近くにまで達するものと見込まれており、可視光照射下においても高い光触媒効果が現れ、消費者や利用者がそれを実感できる製品を普及させるため、十分に高感度な「可視光応答型光触媒材料」の開発が急務となっているというわけだ。

画像2は、今回開発された、可視光応答型光触媒材料の開発材料である銅系化合物を担持した酸化チタンの抗菌・抗ウイルス効果である。この材料は、光が当たらない暗所でも抗ウイルス効果を発揮し、感染力のあるウイルスの数は1時間で4桁減少、すなわち、99.99%のウイルスを不活化することができた。これには、開発した研究者らも「大変驚くべきこと」としている。

また、可視光(紫外線をカットした白色蛍光灯で照度は800ルクス)を照射したところ、1時間で7桁以上のウイルスを不活化することに成功した(画像3)。また、大腸菌(画像4)、黄色ブドウ球菌(画像5)などの抗菌効果についても抗ウイルス効果と同様、暗所での抗菌効果を発揮し、さらに可視光の照射でその効果が大きく促進されることが判明している。

画像2。銅系化合物酸化チタンと、従来材料(従来ドープ酸化チタン)との抗ウイルス効果の比較

画像3。ウイルス(ファージ)を800ルクスの蛍光灯で1時間照らした場合と同じ時間の暗所での抗ウイルス効果。暗所でも4桁減少して99.99%が不活性化。照射した場合は7桁以上減少した

画像4。大腸菌を800ルクスで4時間まで照射。ウイルスほどではないが、4桁半、暗所でも2桁減少している

画像5。黄色ブドウ球菌を4時間まで照射。800ルクスで4桁強、暗所でも3桁強減少している

さらに、可視光下で高い抗菌・高ウイルス性能を示す銅系化合物酸化チタンほかの開発材料を適用した各種供試材を実際の日常空間に設置し、その効果の検証も行われた。

比較的人の出入りが多く、感染症のリスクが高いと思われる空港と病院を実環境として選び、気温・湿度等環境条件の季節変動を考慮するため年間を通した実証試験が行われた形だ。その結果、新可視光応答型光触媒は、実環境においても優れた抗菌・抗ウイルス効果を発揮し、ラボレベルでの結果を検証することに成功した。

なお銅系化合物酸化チタン材料については、助成事業先である昭和タイタニウムが量産技術を確立したことを明らかにしているほか、貴金属や希土類を使用せず、酸化チタンに銅系化合物または鉄系化合物を修飾した可視光応答型光触媒についても2013年内の量産化を目指した技術の確立を進めているとしている。そして銅系化合物酸化チタン材料を適用した製品化については、盛和工業が空気浄化システムの、積水樹脂技術研究所が内装材の、TOTOがタイルおよび塗料の、日本板硝子がガラスの、パナソニックがフィルム材の、太陽工業がテント材の検討を進めているとしている。