京都大学は、太陽電池材料である二酸化チタンの光キャリア再結合過程を解明することに成功したと発表した。成果は、同大 化学研究所 山田泰裕特定准教授、金光義彦教授らによるもの。詳細は、米国科学誌「Applied Physics Letters」のオンライン速報版に2012年9月27日付けで掲載された。

二酸化チタンは、チタンと酸素が結合してできた物質で、無害・無毒で環境負荷が低いことから、化粧品や白色顔料として古くから用いられてきた。一方、二酸化チタンは、色素増感型太陽電池や光触媒材料として用いられており、光エネルギーの有効活用や環境問題の立場から注目を集めている。二酸化チタンには、室温で安定な複数の結晶相が存在し、中でもルチル型とアナターゼ型は、工業的に幅広く用いられている。太陽電池や光触媒の効率ではアナターゼ型が優れているとされているが、その理由はこれまで十分に理解されていなかった。

今回、ルチル型とアナターゼ型の違いを明らかにするため、光照射によって二酸化チタン中に作られる電子と正孔(光キャリア)の緩和過程に着目。光照射によって作られた電子と正孔は結晶中を動き回って、光起電力や光触媒反応をもたらすが、時間が経つと結晶中の欠陥や不純物に捕捉され、ほとんど動くことができなくなる。光起電力や光触媒反応の効率は、このような捕捉までの時間、すなわち電子と正孔の寿命と密接に関係している。

研究グループでは、発光・過渡吸収・光電流という3つの異なる測定手法を組み合わせて、電子と正孔の寿命をそれぞれ独立に決定することに成功。ルチル型では、電子と正孔の寿命はともに数十ns程度だった。一方、アナターゼ型では正孔の寿命は短いものの、μsにおよぶ長い電子寿命を持つことがわかった。このような長い電子寿命が、アナターゼ型の高い太陽電池・光触媒性能に寄与していると考えられるとした。今回の成果は、二酸化チタンを用いた高効率な太陽電池や光触媒材料の開発につながるものと期待されるとコメントしている。

(a)発光・過渡吸収・光電流による測定の概念図、(b)ルチル型の発光・過渡吸収・光電流の時間変化、(c)アナターゼ型の発光・過渡吸収・光電流の時間変化